第29章 足音
がやがやと賑やかな食堂。
毎日昼時や夕飯の時間になれば多くの兵士が集まるしそれは今も変わらないが、今日は兵士達の表情もいつもより和らいでいるし楽しげで皆リラックスムードだ。
エマはいつもとは違う雰囲気に胸をワクワクさせた。
「しかしエルヴィンの野郎は何してる…クソでも長引いてんのか。」
席について暫く、リヴァイがいつもの悪態を着き始めた頃、彼はやってきた。
騒がしかった食堂が一気に静まりかえる。
「皆、よく集まってくれた。今日は晴れて我々の仲間となった新兵達の歓迎の宴だ。彼らの門出を祝い、これから共に戦っていく仲間として温かく迎え入れてやってくれ。
そして新兵の諸君。勇敢なる君たちの選択に大いに敬意を表する。今日は思う存分楽しんで、明日からの鋭気を養ってくれたまえ。」
「ハッ!」
エルヴィンの挨拶の直後立ち上がり、ドンと胸に拳を打つ少年が一人。
それはアデルだった。
「「「ハッ!!!」」」
アデルに続き他の新兵も席を立ち、一様に敬礼をする。
エルヴィンはその顔を一人一人見つめ、“皆、よく調査兵団へ入ってくれた”と笑顔で激励した。
「アデル…」
小さく名前を呟くエマ。
相変わらず緊張した面持ちだがその瞳には揺るぎない決意が表れている。
エマは彼の姿に感銘を受け、素直に尊敬の気持ちが湧いた。
「……」
そんなエマの横顔を横目で見つめるリヴァイ。
彼女が昼間世話をしたという新兵は彼、アデルのことだったのかとこの時察したのだった。
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それから第一分隊所属班の班長、ネスにより乾杯の音頭が取られ、歓迎会は始まった。
数種類のワインにビール、普段の食事ではお目にかかることのない豪勢に盛り付けられたオードブルや肉料理まで振る舞われ、兵士達はグイグイ酒も進みそれはそれは大盛り上がりだ。
「エマ、お代わりはいるか?」
「あ!自分で…」
瓶を持つエルヴィンに遠慮するエマだが、空になったグラスにトクトクと注がれてしまう赤紫色の液体。
「ハハ、今日くらい気にするな。」
「すみません、いただきます…」
エルヴィンに礼言いつつチラリと隣を見やると、ちょうどグラスに口を付けているリヴァイと目が合った。