第29章 足音
「エマ。お前こそ他人の心配ばかりしてる場合じゃねぇぞ。多少酒は飲んでもいいがハメは外すなよ。」
「う…分かりました…」
ばつが悪そうな顔をするエマ。
それもそうだ、なんてったって自分の歓迎会の時酩酊状態になってしまった失態があるのだから。
この間ペトラ達と飲んだ時は酔い潰れたりしてなかったが、だからといって油断はできない。
万が一酒に吞まれ、大勢の酔っ払いの前で以前ミケに擦り寄った時のように豹変してしまったら…と思うと気が気じゃない。
兵団を上げての大々的な酒の席はエマも初めてで楽しみにしているだろうから、自分の傍に縛り付けておくような真似はしないが、一応本人には釘を刺しておかなければ。
“気をつけなきゃ…”などとボソボソ呟いているエマを横目にリヴァイは残りの一口を啜った。
一一一一一一一一一一一一一
「うぉーい!エマー!」
広い食堂の左奥で、ブンブンと左右に手を振って物凄く目立っている一人の人。
「ハンジさん!」
「こっちこっち!おいでー!エマー!!」
さらには大声で名前を呼ばれ、集まっている人達の視線が一気にエマへ向いた。
エマはなんだか周りに申し訳なくなって“すみませんすみません…”と頭を下げながら左奥の席へ到達すると、
「ハンジさん、そんな大きな声じゃなくても聞こえますから!」
と苦笑いしながら軽く一喝した。
「だってー!私のところスルーしてほかの席行かれたらたまんないだろ?」
「そんな心配はご無用です!私もハンジさんの隣に行きたいなって思ってましたし!」
「あーっもう!!エマのそういう素直なところが私は最高に大好きなんだよ!」
ニコリ顔のエマにハンジのテンションは跳ね上がり勢いよく抱きついて頬ずりした。
ちょっと苦しいけれど、エマもエマでハンジのこういう直球なところが好きだなーなんて思いながら大人しく頬ずり攻撃を受ける。
しかしその時、
「おい。お前はこっちだ。」
仲睦まじく戯れる二人を突然引き剥がしたのは、眉間にたっぷり皺を蓄えたリヴァイだった。