第29章 足音
エマが淹れてくれた紅茶は今日も部屋中に芳醇な香りを漂わせ、その香りだけで疲れた体がすーっと取れていくようだった。
何口目かを啜ったあと、リヴァイは唐突に質問する。
「さっきまでどこへ行ってたんだ?」
「書庫に行ってました。」
「…書庫?珍しいな。」
「はい!新兵の子が班長にお使いを頼まれてたんですけど書庫の場所を知らなくて、道案内を。」
「そうか…どんな奴だ?」
答えたエマの顔は嬉しそうで、リヴァイは彼女が世話した新兵のことが少し気になってしまった。
いや、別に深い意味はないのだけれど。
「うーん、少ししか話してないからまだよく分からないですけど…優しくていい子そうでしたよ。あと、とにかくすごい緊張してて必死で放っておけないっていうか…」
「ほう…少しは先輩らしく振舞ったってわけか。」
「そんな、私は兵士でもないのに先輩だなんておこがましいですけど…初々しい感じが可愛いなとは思っちゃいました。それに些細なことでも頼りにされるとやっぱり嬉しいですね。」
両手で包み込んだカップの側面を親指で撫でながら嬉しそうにはにかむエマ。
こいつはこいつなりに新兵のことを気にかけてやりたいと思っているのが伝わってくる。
それを見たら、一瞬新兵に対して芽生えそうになった嫉妬心はスっと姿を消した。
「立場は違えどお前ももう立派な調査兵団の一員だ。だから気負うことなく教えてやりゃいいし、必要なら話し相手にもなってやるといい。
新兵は特に不安は尽きねぇだろうからな…変に兵士同士よりも、お前みたいな立場の人間の方が心を開きやすいこともあるだろ。」
「…はい!」
パアッと顔を輝かせるエマ。その表情にリヴァイも頬を緩ませた。
仲間を大切に思うのは良い事だ。
それにエマは人一倍誰かの役に立ちたい思いが強い。
そんな彼女が活躍出来る場が増えるのはいい事だし、それで彼女が更に生き生きできるなら全く悪いことはないとリヴァイは思った。
「今日の歓迎会も、その子にとっても少しでも楽しい会になればなぁって思います。」
「まぁ死ぬほど酒飲まされて潰れるのがオチだろうけどな。」
「え、そうなんですか?!」
「毎年歓迎会はそうだ。調査兵団の洗礼のひとつだな。」
「そうなんだ…大丈夫かな…」