第29章 足音
意気揚々と準備しだすエマを、リヴァイはジャケットをハンガーに掛けながら横目で見ていた。
「色々種類あるけど、リヴァイさんこれ以外はあんまり飲まないですよね、ダージリン。」
「気に入ったやつしか飲まねぇからな。他のは貰いもんだ。お前が他のが飲みたかったら別にいいぞ。」
「いいえ!リヴァイさんの為に淹れる紅茶だからリヴァイさんの飲みたいのがいいです、フフ」
慣れた手つきで準備しながら嬉しそうに話すエマ。
茶葉の缶を掴んだ手に、後ろから包み込むようにして手を重ねた。
「今日はいやに機嫌がいいじゃねぇか。なんか良いことでもあったのか?」
「良いこと…ありましたよ。リヴァイさんが早く戻ってきてくれたから嬉しくて。」
恥ずかしそう言うエマにリヴァイの胸は急速に締め付けられる。
ゆっくりと振り返ったエマの唇を奪い、そのまま啄むようなキスをした。
不意打ちで可愛いことを言ってくるエマにすぐ自制心など無くなってしまう。
でもそんな気にさせるエマが悪い。
「今夜の歓迎会楽しみですね。」
「そういや今日だったか。」
「まさか忘れてたんですか?もうちょっと兵団のイベントにも興味持ちましょうよ!」
「俺はお前以外に興味はねぇ。」
「っぇえ?!なにを急に…」
真顔のまま本音を吐けば一瞬頬を上気させうろたえるエマ。
リヴァイはその腰を引き寄せると、今度は額にキスをひとつ。
「っもう!恥ずかしいこと急に言わないでくださいよ…」
「恥ずかしいも何も本当のことを言ったまでだ。」
「…っ」
どんどん赤みを増す頬と潤む瞳。
どれだけ時間が経ってもこういうところは初なままで、そこもとても可愛らしくて。
リヴァイは自然と上がる口角をそのままに、再び赤く色付いた唇を視線の先に捉えたが、
ピィーーーーッ
「あ!お湯!!」
あと数センチ…というところで邪魔が入り、心の中で舌打ちが出る。
だが少し冷静にもなった。
そもそも今エマは自分のために茶の用意をしてくれていたのだ。
自分こそこれ以上邪魔してはいけないかと、リヴァイはとりあえず身を引きソファへ戻ったのだった。