第29章 足音
書庫は幹部棟の一階にある。
二階の団長室から階段を下りてすぐなので、結局アデルの荷物を持つことなく目的地へ着いた。
両手が塞がっているアデルに代わってエマが鍵を回し、扉がキィと音を立てて開く。
エマが先に入りドアを抑えアデルが続いたが、
「ありがとうございまっ?!うわぁっ!!」
「?!ひゃわぁっ!」
抱えていた本が派手に吹っ飛んでいく。
アデルは入口の溝につま先を引っ掛け盛大に転んでしまったのだ。
「ってぇ……っ?!」
上体を起こすとアデルはその光景に固まった。
あろう事か自分の下にエマが倒れていたのだ。しかも一
体を起こすために両手をついたせいで、仰向けで倒れたエマに覆い被さるような体勢になってしまっている。
うっ、これは…
目と鼻の先に端正な顔立ちが。アデルの心臓がドキンと跳ねた。
「……っ、」
「ハッ!!すっ!すみません!!大丈夫ですか?!」
激しい動揺を気付かれないようにすぐさま立ち上がり頭を下げたが、彼女は特に気にしていない様子で代わりに心配そうにアデルを見上げていた。
「ううん平気、アデルこそ大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫です…すみません、本も散らかしてしまって…」
二人の周りには本やら、間に挟まっていた資料の紙類が見事に散乱している。
仕事中のエマに道案内を頼んでしまった上、自分の不注意で彼女を巻き込みおまけに資料も盛大にぶちまけてしまう始末。
アデルは己のとんだ鈍臭さに肩を落としたが、その肩にポンと手が乗っかった。
「アデルに怪我がなくて良かったよ。これくらいの失敗なんて誰にでもあるしそんなに気にしないで?さ!パパッと片付けちゃおう!」
満面の笑みで励ましてくれるエマに、アデルの脈は益々速まってしまった。
頬に熱を感じて、赤みがバレていないか物凄く焦る。
「はっ、はい!」
早速本やら紙やらを拾い始めているエマの横に急いでしゃがんだが、その時ふわりと隣から香った甘い匂いにまた胸がドキドキしてしまい、慌ててエマから離れたのだった。