第29章 足音
「そうか、分かった。」
エルヴィンが鍵を取りに行くと、アデルはエルヴィンの背中を追っていた目線をふとエマへ向ける。
エマも彼を見ていたので自然と目が合い、エマはアデルにニコリと笑いかけた。
かなり緊張した面持ちのアデルだったが、エマの笑顔に少しだけ表情を緩めた。
「くれぐれも無くさないように。」
「はい!ありがとうございます!」
鍵を受け取り一礼して踵を返そうするアデルの足が止まる。
「どうかしたか?」
「あの…すみません…書庫の場所を聞いてくるの忘れてしまって…」
焦りの表情を浮かべるアデル。
早くも失態を犯してしまったと思ったのか、肩を竦めている。
それならばとエルヴィンが道案内しようとしたのだが、それより先にエマが声を上げた。
「私が案内しましょうか?」
「え…いいんですか?」
「うん、大丈夫。
団長、ついて来てもらった方が早いと思うので私案内してきますね。」
「そうか、すまないねエマ。なら頼む。」
「いいえ、全く問題ないです!
じゃあ早速行きましょっか!」
エマはエルヴィンにペコと頭を下げると、アデルに頷き目配せをして団長室を出た。
アデルもエルヴィンに向かってもう一度ピシッと敬礼すると、エマの後をついて行った。
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「大丈夫…?やっぱり私も持つよ。」
「これくらい全然平気です!それに女性に荷物を持たせるなんて俺のポリシーに反しますから!」
両手で抱えられた資料はアデルの顎のラインまで積み重なっている。
分厚い本が幾重にも重なり見るからに重そうで、さっきから何度かエマが手伝おうかと声をかけけているのだが、少年は一人で大丈夫だと言い張ってなかなか渡してくれない。
アデルは昨日入団した103期の新兵。
体格は男らしく背もエマより随分高いが、年齢はエマよりも3つ下。まだ15歳だ。
エマは事前に幹部に回っていた情報を見て新兵の名前は全員把握済みだったので、この子がアデルだったのか、と顔を知れてなんだか嬉しい気持ちだった。