第29章 足音
「リヴァイさん…すき、」
無意識に出てしまった言葉に頬が熱くなり、ハッとして手元を見ると中途半端に書きかけの文字が転がっていた。
何浸っちゃってんの…!集中!!
エマは小さくかぶりを振ってペンを持ち直した。
「…あ!」
またハッとして今度は時計を見る。時刻は午後三時前。
…そういえば三時までに団長の所に資料持っていかないと行けないんだった。
リヴァイが目を通してサインした資料。
今書きかけの分が終わったらそれと併せて持っていこうと思っていたが、もうすぐ三時になってしまう。
「もーしっかりしてよ、私!」
最近はこんなことが増えてしまった。
一人になるとリヴァイとのことを思い出してばかりで仕事が滞ることもしばしば。
幸せボケってこういうことを言うのかな…
!!
違う!そうじゃなくて!
またぼうっとそんなこを考えてしまう頭を振って両頬を叩き喝を入れると、エマはとりあえず資料だけを持って団長室へと走った。
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「団長、兵長から頼まれていた資料お持ちしました!」
「あぁ、ありがとう。」
エルヴィンの机の上は今日も分厚い本やら紙の束がぎっしりだ。
そのためエマは持ってきた資料を応接テーブルの上に置いた。
エルヴィンは席を立つと早速資料を手に取りざっと見始めたが、すぐチラリと目線だけをエマに移した。
「随分と慌てていたようだが。」
「え?別に慌ててなんて、」
「髪が乱れてるよ」
飛び出た後れ毛に手が伸びたが、触れる直前でピタリと止まり引っ込んで、
「ほらここ、耳の横」
指さして教えられる。
エマは慌てて髪を耳にかけた。
「すみません…その資料、三時までに団長の所へ持っていくのをついさっき思い出して…」
「それで急いで持ってきてくれたのか。少しくらい遅れても良かったのに。」
「いえ、時間はきちんと守らないと…!遅くなってすみませんでした。」
「ハハ、君らしいね。ありがとう」
エルヴィンは微笑みながらも手は書類を捲って中身を確認している。
優しいことを言ってくれたが、本当は書類の到着を待ち侘びていたに違いない。
エマは幸せボケしていたさっきの自分に心の中でまた喝を入れた。