第29章 足音
え…え…待って…
「はっ!あっそ、の!あのあのえっと!」
何か言いたくて口を開いたけれど訳の分からないことばかり口走ってしまった。
「おい、少し落ち着け」
どうしよう、どしよう、
「う!嬉しい…!!」
やっとの思いで一言を発せたエマの目は涙ぐんでいる。
そんな彼女を見るリヴァイはとても愛おしそうな目をしていた。
「これからは好きなときに来い。別に毎晩でも構わねぇ。」
「え…いいんですか?」
「いいから渡したんだろ。」
「本当に…?」
「あぁ、本当だ。」
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握りしめた重みを噛み締めながら、エマは一人顔を綻ばせた。
これまでもリヴァイの部屋で過ごしたことは何度もあるが、エマは基本的にリヴァイが誘ってくれた時しか行かなかった。
あくまで自室はプライベートな場所だし、リヴァイだって一人で何かしたいこともあるだろうと思って、いくら恋人でも自分から行きたいとは口にしなかったのだ。
別に一緒に眠れなくてもリヴァイがいつも自分のことを大事に思ってくれているのは伝わっていたし、全然不満もなかった。
けれど。
合い鍵を渡されて、“毎晩来てくれてもいい”と言ってくれた。
自室に自由に出入りしていいと言われたのは信頼されている証なのかな…と思ったし、短い言葉だがリヴァイもそれだけ会いたいと思ってくれているのかなと思った。
少し自信過剰かもしれないけれど、別に少しくらい自信過剰でもいいかと思ってしまう…それくらい嬉しかったのだ。
それから一週間、毎日リヴァイのところだ。
一緒にベッドに入れる日は会話をしたりスキンシップしたり、時には激しく求め合ったり。
リヴァイが遅くなる日は本を読んだり、彼の拘りを邪魔しないくらいに掃除をしてから床についた。
そして朝は必ず顔を見て“おはよう”を言う。
元々エマは早起きだし、リヴァイも自主練で早起きする習慣があるので二人の起床時間はほぼ一緒だ。
リヴァイの腕に包まれながら目を覚ますのが大好きだった。
心地良い抱擁とふわりと香る愛しい人の匂いが、エマを一日の始まりから幸せな気持ちでいっぱいにしてくれる。
夜過ごす時間も好きだが、こうして毎日幸せいっぱいの朝を迎えられることもすごく嬉しかった。