第29章 足音
ペンを置いて伸びをする。
「ふわぁ〜」
あ、しまった
つい欠伸が出てしまった。
同時に昨夜リヴァイと縺れ合っていた記憶が呼び起こされドキドキしてしまう。
その高鳴りに身を任せながらエマは徐に胸ポケットから一本の鍵を取り出すと、胸に当てて握りしめた。
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「エマ、手ぇ出せ」
「?はい」
今からちょうど一週間前。
令嬢との一件があった日、リヴァイと長い長い夜を過ごした翌朝のこと。
布団を被って微睡んでいた所にいきなり手を出せと言われ、言う通りにしたら徐に何かを握らされた。
リヴァイの手が離れると、手の中に重みがあることに気がつく。
表情を特に変えない彼を見つめた後ゆっくり開けば、中には真鍮(しんちゅう)製の鍵がひとつ。
これは…?
「一体何の…?」
「俺の部屋の鍵だ」
「ん…?」
エマは鍵とリヴァイを交互に見たが、彼はそれ以上語らない。
鍵を持ったままオロオロと戸惑うエマ。彼女には彼の意図が全然わからなかった。
「何でこんな大事なものを私に…?」
エマは率直に疑問をぶつけると、返事の代わりにはぁ…と大きなため息をつかれてしまった。
あれ、なんか機嫌悪くなった…?
「あ!もしかしてスペア無くすといけないから預かって欲しいとかそういうやつですか?!ならしっかり預かって」
「てめぇはアホか、何故そうなる」
眉間に皺が寄ったリヴァイに焦り、すぐさまそう解釈して納得しようとするエマにすかさずツッコミが入る。
どうやら大間違いだったらしい。ますます機嫌が悪そうだ。
「す、すみません!でも本当によく分からなくて…」
ちょっとしょんぼりするとため息混じりに“鈍感すぎだろ…”と呟かれたが、その後リヴァイはきちんと正しい理由を語ってくれた。
「これからはその鍵でいつでも好きな時に来ていい。俺がいなくてもこの部屋は好き使っていい。」
「……」
「…おい、聞いてんのか?」
「あ、の…」
怪訝そうな顔を瞬きもせずに見る。
好きな時に来ていいって…この鍵で…
それって…それって…
「まさか合鍵ってやつですか?!」
思わず前のめりになって聞くと、リヴァイはやっと皺を緩めて頷いてくれた。