第28章 長い夜 ※
しばらく体を擦っているとしゃくりあげる声も次第に静かになった。
「少しは落ち着いたか?」
「…はい」
少し体を離すと、胸に埋まっていた顔がゆっくりリヴァイの方を向く。
「目ぇ半分しか開いてねぇぞ。」
「… あんまり見ないでください。」
リヴァイが軽く冗談めかした途端素早く両手で顔を隠すエマ。
隠しながら指で瞼の部分を触って確かめて、“うわぁ…ほんとだ…”などと嘆いている。
リヴァイは小さく笑って覆っている手を外すと、徐にキスをした。
「やっ…こんな不細工な顔にやめてくださいよ。」
「どんな顔でもお前は可愛い。」
「っ!からかってます?!」
「いいや?腫れぼったい目ぇしてても、涙と鼻水でぐしゃぐしゃでも、お前は可愛いままだ。」
「は、鼻水っ?!」
別に指摘するつもりはなかったのだが、エマは鼻水というワードに過剰反応して今度は鼻と口元を抑えて慌てだした。
そんな様子を見てリヴァイはまた頬を緩ませ、スーツのポケットからハンカチを取り出しエマに握らせてやった。
「これで拭いとけ。」
「ダメですそんな!リヴァイさんの綺麗なハンカチに汚い鼻水つけるなんて!」
「他の奴のは御免だがお前ならいい。ほら早く拭かねぇと鼻の下カッピカピになっちまうぞ。」
「…すみません、ありがとうございます。」
ペトラ達と出かけていたにも関わらず今日はハンカチを忘れてしまっていた…
肝心な所で抜けている自分を悔やみながら、エマは真っ白なハンカチで有り難く顔を拭かせてもらうのだった。
「ありがとうございました…あ、これちゃんと洗って返しますので。」
「んなもんは気にしなくていい。」
「ダメです!せめてそこはちゃんとさせてください!」
汚した者が綺麗にして返すのは基本のマナーだし、いくらなんでもそこまでおざなりにはしたくない。
エマが素早くハンカチを自分のポシェットに突っ込むと、リヴァイは再び小さく笑った。
「なら洗濯は任せる。それといつまでもお互い突っ立ってんのもアレだ。まぁ座れ。」
「あ、はい」
そういえばずっとドアの前に立ったままだったと気がつく。
リヴァイに促されソファに行こうとしたのだが、その時エマは衝撃的なものを見つけて絶句してしまうのだった。