第28章 長い夜 ※
「…団長?」
「俺ではダメか?」
「……え?」
エルヴィンは立ち上がったエマの腕を無意識に掴んで、そんな言葉を吐いていた。
驚き見開いたエマの目を、深い碧色の瞳が捉える。
その瞳は切なく揺れていて、彼の一人称が“私”ではなく“俺”になっていることにもエマは気がついた。
「俺では、癒すことができないか?」
「だん、ちょ」
「ほんの少しでいい。お前の慰めにでも気休めにでもなれるなら、何でもしてやりたい。」
何を馬鹿げたことを言っているんだと、心の中のもう一人の自分が止めようとしていたが、エルヴィンは聞こえないフリをした。
一度吐露してしまった本音は、もう止めることが出来なかったのだ。
「………」
「お前が苦しむ姿を見たくない。」
「………」
「一人で我慢しないでくれ。辛ければ俺に逃げてくれていい。どんな理由であろうと、全て受け止めるから。」
細い腕を掴んだ大きな手には自然と力が篭る。
「だんちょう…」
「俺では…リヴァイの代わりになれないか…?」
「だんちょう……いたい、です…」
「!すまない…」
小さな声で訴えるエマを見て、エルヴィンはハッとしすぐに手を離した。
エマが顔を歪めるその時まで、エルヴィンは自分が暴走しかけたことに気付けなかったのだ。
掴んでいた手のひらがじんじんする。
どれだけ強い力で握ってしまっていたのか…
エマの手首の痛みを考えて余計に苦しくなった。
「すまない…どうかしていた。」
「いえ、そんなことは」
「本当にどうかしてた。今のは忘れてくれ……申し訳なかった。」
エマの顔を見ないようにエルヴィンは頭を下げたが、すぐに頭を上げてくださいと焦った声で言われ、ゆっくり頭を持ち上げた。その時だった。
「エマ」
「!!…リヴァイさん……」
エマの名を呼ぶ、聞き慣れた低い声。
数メートル先に立っていたのは黒いスーツに身を包んだリヴァイだった。