第28章 長い夜 ※
例え任務であっても、心がそこにないと分かっていても、恋人が他の女と寝ることを許せる者などそうそういないと思う。
だからこそ、辛い気持ちを押し殺してまでリヴァイのことを理解しようとするエマを見るのが痛々しかった。
“本当は任務になんて行って欲しくない”
いくら経ってもそんな言葉はエマの口から出てこないし、“自分が理解しなければ”とそう言うばかり。
私ではなくリヴァイにだったら、“行かないで”と本音が言えたのだろうか?
いやきっと、もしリヴァイ本人の口から今回の任務のことを聞いていたとしてもエマは健気に振る舞い、影で一人で我慢するだろう。容易に想像できる。
今、一人不安に押し潰されそうな彼女に、俺は何がしてやれる?
少しでも苦しみを和らげるように、震える肩をキツく抱いてやりたい。
一夜だけでも、ほんの一瞬でも、彼女の慰めてやりたい。
だがこんなのは身勝手で独りよがりで、ただの自己満足にすぎないし、エマもそんなことは望まないに決まってる。
しかし…ならそれ以外で自分に何ができる?とそこまで問いただしたところで、俺は答えを導き出すことは出来なかった。
「団長…すみません、ありがとうございます。」
「いや…」
エマは顔を上げ、落ち着いた表情で礼を述べた。
結局何も言えないまま、俯くエマの頭を精一杯の慈愛を込めて撫でてやることしか出来なかった。
「私の方こそすまない。辛い君に、大して何もしてやることが出来ない。」
本当に何もしてやることができない。悔しい。
結局エマを励ます手段なんて、恋人ではない俺にはごく限られたものしか用意されていなかったのだ。
「そんなことないです。団長が“頑張ってる”って言ってくれて、心が救われました。」
「…そうか。」
そんな一言だけでいいのか。
本当にその言葉は、少しでも君を救うことができたのだろうか?
「団長…本当に、ありがとうございました。」
自分ではどうしてやることもできないのが、辛く苦しい…