第28章 長い夜 ※
一一一一一一一一一一一一
どれくらいの時間が経った?
数分?数十秒?数秒?
全然分からない。
「だ…んちょう……」
逞しい腕の中で完全にストップしていた思考が徐々に動き出し、そこで初めて声が出たが、それは物凄く頼りなく弱々しいものだった。
「エマは十分頑張ってる。何も情けないことなんてない。」
エルヴィンの声は力強くて温かく、不安定なエマの心を全てを包んでくれるようだった。
でも、
「…ありがとう、ございます」
エマはスっとエルヴィンから離れた。
抱き締められていた訳ではなくて、エマが離れようと体を起こした時も彼はすぐに腕を解いてくれた。
しばらく黙っていたが、その間もエルヴィンは何も言わず優しい視線をエマへ向けていた。
「すみません、団長の前でこんな…」
「何も謝ることはないよ。」
漸く謝罪の言葉を零すが、微笑むエルヴィンの顔を見て胸が痛む。
エマはまた彼の優しさに甘えてしまったと後悔した。
いやそもそもエルヴィンにリヴァイの事を聞いたのが間違いだった。
自分が詮索しなければ、エルヴィンにこんな心配をさせずに済んだのに…
結局、中途半端な覚悟しかできていない自分に嫌気がさす。
「私が…覚悟も我慢もできないばっかりに、団長に要らぬ心配をかけてしまいました…」
「全て一人で抱え込まなくていい。ほら、何でも聞くと言っただろう?リヴァイの愚痴でも何でも。」
リヴァイと恋人になったのを打ち明けた時、確かにそう言ってくれていた。
申し訳ないと思っていたが、目を細めるエルヴィンに心のどこかでホッとしている自分もいる。本当に情けない。
「任務だと…頭では理解しているつもりです。もう少し時間をかければちゃんと受け入れられますから…」
「君には酷なことをしてしまって申し訳ないと思っている。リヴァイにこんな任務を課しているのは元々私の指示でもあるから。」
…違う、団長は何も悪くない。
「そんなこと…!こういう事があるのも分かった上で、兵長の傍にいると決めたのは私自身ですから…だから私が、」
「本当に頑張り屋さんだ、エマは。」
必死に否定するエマに被せるように、優しい声が重なった。