第28章 長い夜 ※
「なっ…」
「お前は俺を好いている自分が好きなだけだ。」
怒りで頬を上気させるエリーゼを後目に、リヴァイはソファから降りて窓枠に背中を預ける形で向き直った。
「デタラメ言わないでよ!私は貴方が大切で貴方だけを愛していて、貴方のためにいつだって可愛くいる努力だってしてた!それのどこが、自分のためだっていうの?!」
「お前は大切で愛している奴の声に一度でも耳を傾けたことはあるか?そいつの思いを尊重しようとしたことはあるか?」
「あるわ!それに貴方は私の愛してるという言葉を今まで否定してこなかったじゃない!嘘をついておいて、偉そうな口きかないで!」
「確かに否定はしてこなかった。
だが、はっきり好きだと言ったわけでもない。」
「!!」
言い切ったリヴァイにエリーゼは目を見開いたまま呆然とする。
「お前は一度でも、俺の気持ちを真剣に聞こうとしたか?」
「……それは…」
真ん丸な目が泳いだ。
エリーゼはいつも直球だ。
しかし自分の気持ちに対しては真っ直ぐだが、相手の気持ちを想像する力が圧倒的に欠落していたのだ。
「独りよがりなのは愛じゃない。」
「……」
「お前は俺に恋はしていたかもしれない。だが愛してはいない。」
「分かったような口聞かないで…私の何が…何が分かるっていうの…」
俯いた彼女の肩は小さく震えていた。
「愛するってのは、ただ恋焦がれるだけのもんじゃねぇし、一方的に気持ちをぶつけるだけのもんでもねぇ。」
あいつが笑うためなら、何でもしてやりたい。
あいつが傷つき泣いていたら、その傷が癒えるまで何日でも、何年でも寄り添ってやりたい。
あいつを傷つけないためなら、いくらでも自分を犠牲にしたっていい。
エマが笑って幸せでいてくれることが、自分にとって何よりの喜びであり幸せだ。
そんな風に思える。
エマと出会って、俺はこの気持ちを初めて知った。
「貴方には…愛する人がいるの…?」
消え入るような縋るような声が迫り、リヴァイはその目を見据えて初めて彼女に自身の思いを吐露した。
「人生をかけて守りたいと思うやつがいる。」
「…はっ、ははは!ははははっ!」
乾いた笑い声が力なく部屋に響く。
しかしエリーゼの目からはいくつもの涙が流れていた。