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【進撃の巨人】時をかける—【リヴァイ】

第28章 長い夜 ※




「…私は、」


暫く沈黙し、漸くエマが口を開いた。

エルヴィンの方を見ず俯いたままだが、エルヴィンはエマから目を逸らさなかった。


「兵長の立場も任務も、全部理解して覚悟した上で一緒にいる。ずっと…そう思っていました。」

「………」

「兵長は、自分の心臓はもう自分一人のものではない。いつ尽きる命か分からないけれど、それでも最期のその時まで、全力で愛し守ると言ってくれました…
だから私も、最後の一瞬まで愛すと、兵長を信じると心に決めました。」

「………」

「だから、この間の壁外調査の時も、もしかしたら戻って来ないかもしれないという不安はもちろんあったけれど、“必ず帰る”と言ってくれた言葉を信じて待ちました。
でも…」


「…?」



そこまで一気に喋っていたエマが再び黙る。

じわじわとまた目が潤み、もうあと数回瞬きしたら溢れるぐらいになった。



「…壁外調査のように命の危険に晒される事もない…明日の朝になればまた会えるというのに、今回は全然…全然だめなんです…」

「………」

「任務だから仕方がないといくら思っても、今この瞬間に兵長が誰と何をして過ごしているのかを考えただけで…」




-胸が張り裂けそうなんです-




そう言って、エマはとうとうボロボロと涙を零し始めた。


エルヴィンは何も言えなかった。

嗚咽を漏らすエマを、ただ見つめることしか。




「……っ全然、兵長の立場も任務も、何も覚悟なんてできてなかった…
壁外調査だって、兵長の言葉を信じていたことには変わりないけど、自分にはどこか現実味がなかったからきっと待つことができたと思うんです…」


拭われない雫はぽたぽたと落ちて、太腿に次々染みを作ってく。


「だから…兵長が他の女の人と一緒に過ごす…っていう“現実”を突きつけられただけで、こんなにも簡単に揺らいでしまう……たった一夜だけのことなのに……本当に自分が情けなっ!!」


声を震わすエマの視界が突然暗転する。

それと同時に嗅ぎ慣れない香りがふわりと鼻腔を掠めた。



「いい…もういい、エマ」



さっきまで真横で聞こえていた声が頭の上から聞こえて、そこで初めてエマは、エルヴィンの腕の中にいるのだと気づいた。

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