第28章 長い夜 ※
切なく潤んだ瞳がじっとエルヴィンを見つめる。
そんなに苦しそうな顔をしてまで、真実を知りたいというのか…
いや…
好きだからこそ、相手のことは全て知りたいと思ってしまうものだ……例え自分が傷つくことになろうとも。
エマの気持ちは痛いほど分かる。
自分だってリヴァイの前で…好きな男の前でエマがどんな顔をするのか知りたくてたまらないのをずっと堪えているのだから。
もしもその表情を垣間見ることができるなら、迷わず見てしまうだろう。そして、傷つくのだろう。
少し想像しただけで自分には何のメリットもないことは分かるのに、それでもその欲求にはきっと勝てない。
自分も、エマも一
「…リヴァイは、ノルトハイム伯爵という資産家の令嬢、エリーゼの屋敷へ行っている。」
エマは目こそ微かに見開いたが、特段驚くことはなかった。
恐らく彼女の予感は当たっていたのだろう。
「……ずっと前に、ハンジさんから聞きました」
少しの沈黙の後、エマは静かな声で話し始めた。
「団長と兵長は…兵団の資金繰りを助けるために、貴族達の相手をしている、って…」
答え合わせを求めるような目で見てくるエマに、嘘はつかずに答える。
「あぁ、間違いじゃない。私もリヴァイも、時々そういうことをしている。」
「…“貴族の相手”というのは、単に食事や話をする…だけじゃない……」
「……そうだ。」
実際は食事だけの方が珍しい。
貴婦人や金持ちの家の令嬢に身体を差し出すことの方が圧倒的に多いのだ。
敢えてそこまでは言わなかったが、彼女の様子を見る限りそのことにも気づいているかもしれない。
「………」
エマの唇の動きが止まった。
どこか一点を見つめながら何かを考えているようだった。
何か声を掛けてやるべきかと考えたが、
“大丈夫か?”、“辛いな”
そんな陳腐な言葉しか出てこなくて、結局口を開くことはしなかった。