第28章 長い夜 ※
「不安か?」
「え?」
無言で瞬きを眺めていると、横から声がした。
唐突にかけられた言葉の意味が分からずに聞き返すと、ゆっくりとこっちを向いた瞳と視線が交わる。
「リヴァイのこと」
「!!」
名前を聞いた瞬間、心拍が跳ね上がった。
その時、やはりエルヴィンは知っているんだと確信した。
そして深く考えなくても彼の言葉の意味は、エマが抱いていたあの憶測へと繋がってしまう。
今今、詮索するのはやめようと思ったばかりなのに、それも無駄になってしまった。
どう返していいか分からなくなって押し黙っていると、また声がした。
「…知らなかったのか?」
「っ…」
瞬きもせず激しく揺れるエマの瞳を見て、エルヴィンは悟ったようだった。
「すまない。てっきり知っているとばかり…」
「いえ…団長は何も………あの、」
“兵長は今何を?”
そう言いかけて口が動かない。
たぶんもう、いや絶対に自分の予想は当たっている。
それを確認するだけなのに、エルヴィンの口から聞くのが怖くてたまらない。
「リヴァイは優しいんだな。」
「……」
「君が知ったら傷つくと思って言わなかったんだろう。私としたことが余計なことを言ってしまった…すまない、本当に」
「い、え……」
とうとう顔を上げられなくなった。
目の奥がじんとする。
聞きたくない。真実を知ったあと、自分がどうなってしまうか分からなくて怖い。
でも、でも…
「まったく…知らなかったわけではなかったんです…自分の中で、予感は…ありました……」
知りたい。
人間は愚かだ。
自分が傷つくと分かりきっているときでさえ、それでも知りたいという欲には敵わないのだから。
「兵長は…」
発した声は驚くほど弱々しくて震えたものだった。
エルヴィンがこっちを向いた。
声をなんとか絞り出す。
「今どこで誰と…過ごしているのですか…?」
少しでも気が緩めばもう涙が落ちそうだった。
だが決して溢すまいと、下唇を強く噛み手首をキツく掴んで、エマはゆっくり碧い目に視線を合わせた。