第28章 長い夜 ※
「もう平気だけど、もう少し夜風に当たってから戻るね!」
「そう?なら今日はここで解散ね。」
「少し休んだら戻れよ。4月とはいえ夜はまだ少し冷えるからな。」
ガーガーといびきを立てているオルオをおぶりながらエルドが言うと、エマはぺこりと頭を下げた。
「はい!今日はすっごく楽しかったです!ありがとうございました!」
「私達も本当楽しかったよ!いい話も聞けたし!また飲もうね!」
ペトラの満面の笑みに笑顔で頷き、それぞれに散っていく姿を見届けたあと、エマは中庭へと向かった。
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「ふぅ…」
中庭のベンチに腰掛けて深く息を吐く。
店を出るときは結構やばい状態だったが、だいぶ思考はクリアになった。
前回もそうだったが自分はアルコールが抜けるのは結構早いようだ。
見上げると今宵の月は満月に近いほど満ちていて、辺りを薄らと青白く照らしている。
そよそよと少し冷気を含んだ風が火照った頬を掠めると、何とも言えない心地よさがエマを包んで、自然と瞼が下りた。
今日はペトラ達と過ごせて本当によかった。
飲みに行くのが念願叶ったのも単純に嬉しかったけれど、“今夜”皆とワイワイできたのがエマの気持ちを救ったのだ。
リヴァイさんは…今頃何をしてるのかな…
この数時間は思い出さなかったことがふと頭に浮かぶ。
さっきまでは平気だったのに、一人になった途端にコレだ。
信じて待つ、と決めたはずなのに全然できてないじゃないかと心の中でため息をつく。
一旦彼の顔が浮かんでしまうと、どうしようもない不安感に襲われる。
あの憶測だって何度も否定してきたはずなのに、簡単に脳に蘇り支配して、また不安を煽る。
そして一度支配されるとそれはなかなか消えてはくれなかった。
信じたいのに信じられない自分が腹立たしい。
渦巻き始めた負の感情をかき消すように閉じた瞼に力を込めた、その時。
「エマ?」
不意に頭上に降ってきた声。
硬く閉じていた目をパッと開けると、自分の顔を覗き込んでいたのはエルヴィンだった。