第27章 Restart
心底深くに沈めていたエマへの想いが浮かんできそうになったが、何とかまた押し込めた。
もうここを立ち去った方がいいだろう。
これ以上エマの傍にいてまた変な気を起こしそうになってはだめだし、リヴァイだってそろそろ戻ってくるかもしれない。
リヴァイに用があってここへ来たというのに、今は彼には会いたくないなとそんな身勝手なことを考えてしまっていた。
「君の言う通り今日は結構疲れてるみたいだ。今夜は早めに休むとするよ。」
「それがいいです!ゆっくり休まれてくださいね。」
「あぁ。君も慣れないことをして心身ともに疲れているだろうし、明日からまた事後処理が忙しくなる。後はゆっくりしなさい。」
「はい!じゃあエルヴィン団長、おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみエマ。」
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一人になった部屋でエマはエルヴィンのことを考えていた。
時々私と話すだけで活力になるというのだろうか?
かといって自分が団長を支えるために何ができるのかと言われたら、すぐには思い浮かばないのだけれど…
やはり自分にも本音は隠しているような気がして、複雑な気持ちだった。
なにも、自分に全てさらけ出して欲しいとは思わない。
でもたぶん団長は、誰よりも多くのものを背負っているのに、誰にも弱みを見せていない。
そんな風に見えてしまうからこそ、彼に一人でも心の拠り所になるような人がいればと強く思うし、そうであって欲しいと思う。
そんなことを考えていると、突然執務室のドアがノックもなく開いた。
振り向いたエマの目に飛び込んだのは、さらりと揺れる黒髪。切れ長の目。小柄なシルエット。
「リヴァイ、さん…」
「エマ」
聞きなれた声が自分の名を呼んだ瞬間、エマはその胸に飛び込んだ。
しっかりと両腕で受け止められて、すくまさま優しい抱擁に包まれる。
「おかえりなさい…」
発した声は震えてしまった。
「ただいま」
ずっと聞きたかった人の声が確かに耳に届く。
しがみついた両手に、ぎゅっと力が篭った。