第27章 Restart
「うん!ありがと!俺ぜってぇリヴァイ兵長みたいな兵士になるから、ネェチャンも見ててくれよ!」
「うん、分かった。」
無邪気に笑うダニエル。それは穢れなき少年の心そのものを映すような透き通った笑顔だった。
亡き家族のために、残された妹のために調査兵団に入って巨人に立ち向かう。
最初それは悲しい夢だと思ったが、よくよく考えればこの少年にとってはそれこそが希望なのだ。
それなら彼の心に灯る希望の灯火を絶やさぬよう、その火を見守ってあげたい…
エマは微笑み、小さく勇敢な兵士を優しく抱きしめた。
「私はエマ。あなたのこと待ってるから…どうか負けないで。」
「エマ…」
ゆっくり離れると少し頬を赤くした少年が立っていた。
その頭を撫でると、隣のリリーも同じように抱きしめて、撫でた。
真っ赤に染まっていた西の空が段々移ろっていく。
「そろそろ帰らなくちゃだね。壁外から戻ってきた兵士さんに見つかったら怒られちゃうしね。」
エマは二人の肩を抱いて、“またね”と微笑んだ。
「おう!またな、ネェチャン!」
「おネェチャン…ばいばい」
手を繋いで走り去っていく二つの背中が見えなくなるまで、エマは目を逸らさなかった。
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西の山に太陽がほぼ全て隠れた頃、調査兵団一行は兵舎へと戻ってきた。
「それにしても今回も被害は最小限に抑えられて良かったよね。さすがに前回のようにはいかないと思ってたけど、巨人と対峙することもほとんどなかったし。」
「フン…こうもスムーズに行くと後で何か起きそうで怖いな。」
馬を厩舎へ戻し武装を解いて幹部棟へと歩くハンジ、ミケ、リヴァイ。
ミケが鼻を鳴らしながらハンジの話に頷く中、リヴァイは眉を顰めていた。
「犠牲者はゼロじゃねぇ。逆に言えば恵まれた状況だったってのに死なせちまった。それについても考えるべきだと思うがな。」
「現状に甘んじるなということか。」
「確かに…リヴァイの言う通りだね、現状に満足していてはいけない。陣形も各班の動きも個々の技量だって、もっと改善や向上の余地があるしね。」
「調査兵団は常に人員不足だ。仲間をいかに死なせずに作戦を遂行するか…上の人間は特に、そういう考えは持っておくべきだろ。」