第27章 Restart
「兵長もそれを聞いたらきっと喜ぶと思うよ。」
「本当?!俺本気で頑張る!
リリー、兄ちゃん強くなって、お前にもう二度と寂しいなんて思いさせねぇからな!」
「お兄ちゃん…」
少年はニシシと笑って、リリーと呼んだ妹の頭を撫でる。
傍らでずっと暗い顔をしていたリリーは、兄の顔を見上げて目を細めた。
それを見たエマの胸は切なく締め付けられた。
4年前に巨人に壁を破壊された日、恐らくこの兄妹にも何か不幸なことがあったのだろう…
2人の短いやりとりの中には、そう感じざるを得ない雰囲気があった。
しかしその後少年が語った話に、エマは想像以上の衝撃を受けることとなる。
「母ちゃん巨人に食べられちまったんだ。父ちゃんは助かったけど、その後奪還作戦に行ったっきり戻ってこない。
だから、俺がリリーを守ってやらなきゃいけねぇんだ。」
「…!」
強い瞳のまま真っ直ぐ見据えて話す少年に、エマは言葉が出なかった。
二人は母親が食べられたのを、目撃したのだろうか…?
そしてウォール・マリア奪還作戦に駆り出された父。
それは領土が減ってこの国が人口を支えきれなくなるのを防ぐために行った、“口減らし”だったとハンジさんが言っていた。
何の訓練も積んでいない多くの民が、満足な武装もさせてもらえず巨人に向かって行ったと…
幼い妹はそこまで理解していないかもしれないが、この少年は父が帰ってこない理由もきっと分かっているだろう…
どうして……
どうして幼い子供達がこんな理不尽な理由で苦しまなければならないのだろう。
どうして何の罪もない人の命を、巨人は奪うのだろう。
エマは込み上げる感情に涙が出そうになったが、この子達の前では絶対に泣いてはいけないと歯を食いしばった。
「君…名前は何て言うの?」
「ダニエル」
「ダニエル。君はとても優しくて勇敢なお兄ちゃんだよ。君なら絶対、強い兵士になれるって信じてる。」
エマはしゃがみ、ダニエルの両腕を力強く掴んで目線を合わせた。
その手に込められたのは、彼を応援してあげたい気持ちと、幼い心に悲しい夢を抱かせたこの世界に対する、悔しい気持ち。
そのどちらもだった。