第26章 兵長ご満足プラン ※
「お部屋のご説明は以上でございますが、ご質問等ございませんか。」
「大丈夫です、ありがとうございます。」
“ごゆっくり”と去って行く女将を入口で見送り部屋へ戻ると、正面の窓から外を眺める背中が見えた。
「いい眺めですね」
「そうだな」
リヴァイの隣に立つと、上から下まで一面ガラス張りの窓からは、昼間歩いた温泉街とその先に広がる海が見渡せた。
小高い丘に建つここからは、ほぼどの部屋からもそれらの景色が見えるように作られているらしく、絶景が見られる旅館としても有名なんだそうだ。
「急に泊まりにしちゃったけど良かったですか?」
「明日の朝までここでゆっくりできるんだろ、良いに決まってる。
でもお前は本当に大丈夫だったのか?」
「全然気にしないでください。兵長にはずっとお世話になりっぱなしだから恩返し…とまではいかないけど、少しでもお礼の気持ち伝えたくて。それに、こんなことまたとない機会ですし…」
少々照れながら微笑むと、大好きな手のひらが頭に乗っかる。
「ありがとな」
斜め上には優しい眼差しがあって、心全体を抱擁されたようにとても安心する。
今日は何も考えずにずっとこうしていたいな…
最初は日帰りで考えていたこの“兵長ご満足プラン”だったが、エマ達は結局一泊二日で泊まる事にした。
老婆の話を聞いた時、エマは今一度心に決めたのだ。
これからリヴァイと過ごす時間は、一切の心残りなく一瞬一瞬を全力で大事にすると。
だからこのご満足プランも、せっかくなら泊まりがけで心置き無く楽しみたいと思い直した。
それに、泊まりの方が旅行っぽくていい。
せっかくリヴァイとこっちの世界に来れたのだから、何か一つ大きな思い出を作りたいと思ったのだ。
この旅館も学生のエマにとってはかなり値が張る方だったが、そんなことはさして問題ではない。お金の問題などどうだっていい。
思い立ったのがギリギリだったにも関わらず、無事予約もとれて一安心だった。
明日が平日だったことに感謝した。