第25章 神隠し
思い出した…!
井戸までの道のりと景色、
両親のヨーロッパ旅行の話、
そして、
「澪!!」
エマは突然、叫ぶように声を上げた。
そんなエマの様子にリヴァイは目を丸くする。
「おいどうした…急に叫びやがって。」
「兵長…私、思い出しました……あの子の名前!」
「なんだと?」
「澪……澪だ……あっ待って!」
「おっおい待て!」
思い出したというその名前を確かめるように呟いたと思ったら、今度は歩き出した猫を追いかけ始める。
リヴァイも慌てて後を追うと、エマは興奮した様子で振り返った。
「この猫なんです!井戸まで連れてってくれたの!」
「!本当なのか?!」
「間違いありません!あの日もこの子を追って狭い路地をいくつも抜けたら着いたんです!」
艶がある漆黒の毛並み、何かを見透かすような鋭い目。
“君は、どこから来たの?”
あの時も、私はこの猫に同じ言葉をかけた。
ふいっとそっぽを向いて歩き出した後ろ姿。
まるで“ついてこい”と言っているように見えて、その後を追ったんだ。
好奇心なのか何なのかは分からないが、この猫をここのまま見失いたくないと、そう思って一
尻尾を振りながら優雅に歩いていた猫は突然走り出した。
「あっ!待って!」
「チッ、絶対に見失わねぇようにするぞ!」
リヴァイが前に出てエマの手を引っ張り走り出す。
狭い路地の角をいくつも曲がり、素早く通り抜ける黒猫を必死に追いかけた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
ぐいぐい引っ張られながらかなり全力疾走した…
走りすぎて肺がめちゃくちゃ痛い。
両膝に手をついて腰を折り肩で息をするエマとは対照的に、リヴァイはあんなに走ったのに呼吸ひとつ乱していないようだった。
「お前の落ちた井戸はこれか?」
リヴァイの声にハッとして顔を上げると、視界に入った見覚えのある光景に呼吸が止まった。
「…これです、間違いないです。」
草が生い茂り、蔦が絡みついた古井戸。
ついにたどり着いた。