第25章 神隠し
「リヴァ」
「それに俺は今までだって十分お前に支えられてる。お前が気負う理由なんてどこにもねぇんだよ。」
「すみません…」
「謝ることはねぇ。ただもう少し自信を持て。俺もお前も、目の前にいる互いのことを好きだってだけでいいじゃねぇか。」
分厚い胸に優しく頭を寄せられて、胸の中に温かいものが広がっていく。
「リヴァイ…兵長……」
名前を呼んで、その背中に腕を回した。
「兵長のことが好きです、大好きです。今も、この先もずっとずっと。」
「その言葉が聞ければ十分だ。」
柔らかな声に上を向くと、優しいキスが降った。
重なった唇は柔らかくてあたたかくて、その僅かに触れた面積から愛しい人の想いが伝わる。
ありのままの兵長を、ありのままの私を、
互いに受け入れて、愛して、それだけで十分だ。
「ニャー」
…ニャー?
二人だけの空間に無遠慮に入り込んできた音。
下を見ると、一匹の猫がじっとこちらを見ていた。
「ねこ…?」
「ニャー」
真っ黒な毛に鋭い目をした猫が、また鳴いた。
「兵長のことが気になるんでしょうかね…?可愛い猫ちゃんですね。」
「こんなところを盗み見るなんざ趣味の悪い猫だな。」
スリスリとリヴァイの足に擦り寄っている黒猫。
リヴァイは面倒臭そうにしていたが、無理やり退かそうとはせずまとわりつかれたままで、彼は動物に対しても優しんだななんて思った。
「可愛いねぇ、よしよし。君はどこから来たの?
…あぁっ!」
それは猫を撫でながら本当になんとなく零した一言だった。
しかしその台詞を吐いた瞬間、突然エマは仰天し飛び上がるのだった。