第25章 神隠し
「だが絶望の最中死の淵から救ってくれた奴がいた。そいつに教えてもらったんだ、生き抜いていく術を。」
「生き抜いていく、術…」
「そうだ。」
ポツリと反復するエマの顔を見て、また目線は遠くの方へ移った。
「地下街で生き抜くためにはまずナイフの握り方からだった。騙し合いや殺し合いは日常的、とにかく強い者が生き残る。そんな馬鹿みたいにわかり易すぎる世界で生きながらえるためには、それが最も重要な“教育”だった。」
「!」
「そうして俺は強くなった。あの男が居なくなってからも生きながらえた。本当にどうしようもないほどクソな世界だったが、あそこで生きた過去があるから今の自分がある。」
リヴァイの口から語られた話はあまりに衝撃的すぎて、返す言葉を失ってしまう。
「引いちまったか?」
「そんなことは!」
黙り込んでしまっていたことに焦って否定した。
横顔は太陽を向いたままだ。
「そんな過去があったなんて…知らなくて……私は兵長に本当に寄り添えていたのかなって…」
私は、兵長のことを何も知らない。
こんなに壮絶な生い立ちだったことも、それ以外の過去も。
「恋人なのに、知らないことだらけだなって…そんなんでちゃんと兵長の、心の底からの支えになれてるのかなって…」
涙が出そうになる。
その時、隣を歩いていたリヴァイの足が止まった。
同時に腕を掴まれてリヴァイの方を向かされる。
「エマ。俺はお前の過去なんて知らない。知れたら知れたでいいが、別に知らないままでもいいと思ってる。なぜだか分かるか?」
「…何故、ですか…?」
どんなことにも揺らがない真っ直ぐな瞳がじっとエマを捉えたまま、言う。
「どんな過去があろうと、ここにいるありのままのお前を好きになった事実は変わりないからだ。」