第25章 神隠し
「すみません…」
「謝らなくていい。こんなことが起きたらパニックになるのは当然だ。
だが一生その記憶が戻らないとも決まったわけじゃねぇだろ?不安なのは分かるが…闇雲に悪い方に考えるのはよせ。」
「そう、ですね…」
宥めるような声で落ち着かせるように言うと、エマの顔に少しだけ覇気が戻った。
「兵長。」
「なんだ?」
「この記憶喪失って…やっぱり兵長の世界にトリップしてしまったことが原因なんでしょうか?」
「…可能性はなくはないと思うが…」
「そう…ですよね…」
最初に違和感を感じたのはハンジの部屋でスマホの使い方を説明している時だった。
写真に写っていた彼女の名前が思い出せなかった時。
思い返せば、きっとあの時から自分の中で何かが起こっていたのだ。
こことは全くかけ離れた別の世界。
空間も時空も超越した世界。
冷静に考えれば、そんなところで3ヶ月も過ごしていたら、何かしら体に異変が起きることだって充分にありえるかもしれない。
そもそもトリップした時点で、今までの常識は全て通用しないと思うべきだった…
けれど。
もし本当にトリップした事が原因で記憶の一部が消失してしまったというなら、これ以上あっちの世界に居続けたら………
そこまで考えて、エマは大きくかぶりを振った。
根拠もないのに悪い方に考えるのはダメだ。
黙って見守ってくれていたリヴァイに向き直る。
「兵長の言うとおり、今は無駄にあれこれ考えるのはやめます。
でも…トリップの謎が分かれば、記憶を取り戻す方法も分かるかもしれませんね。」
「あぁ…となると、やはり井戸を見つけるのが先決だな。」
「そうですね…明日も探してみましょう。」
こちらを見上げるエマの瞳にはもうさっきまでの絶望の色は見えなかったが、それとは別のことにこの時のリヴァイは気が付いていた。
力強い眼差しの裏に隠されていた、彼女の違和感に。