第25章 神隠し
あの子の顔には見覚えがあった。
スマートフォンの待ち受けで私の隣に写っていた子だ。
その他にもたくさん一緒に写真を撮っていた。
でも見覚えがあるのはスマホに写っていた顔だけで、彼女の名前や、自分とどういう関係だったのかは何も分からない。
学校を休んだ私の心配をして、昨日も今日も連絡をくれたと言っていた。
そのメッセージを見れば何か分かるかもしれないが、スマホはあっちに置いてきたままで、それを確かめることはできない。
きっと、仲が良い友達だった。
でも彼女にまつわる一切の事は私の脳内から消去されてしまったかのように何も存在しない。
つまりこれは…
「記憶の一部が…消えてる…」
心配そうに見つめるリヴァイと目が合った瞬間、自分でも酷く顔が歪んでしまったのが分かった。
「記憶の一部が消える、だと?」
「記憶喪失の一種…かもしれないです…
あの子のことを思い出せないのもそうだし、両親が旅行に行くことを覚えていなかったのも、そのせいなのかも…」
自分で説明していて、すごく怖くなる。
「…井戸までの道が思い出せないのも、そのせいかもしれねぇ…ってか。」
「可能性はあります……でもどうしてこんなことに。」
一体自分の頭はどうなってしまったというのだ。
どこかで頭を打った覚えもないし、強い精神的ショックを受けた覚えもない。
もしかしたらまだ気づいていないだけで、もっと他の、大事なこともたくさん忘れてしまっているのでは…?
そんな事を考え始めると、どんどん怖くてたまらなくなっていく。
「どうしよう…一体どうしたら…」
「おい落ち着け。二つの世界を行き来したせいで一時的に混乱してるだけで、この先思い出すかもしれねぇだろ。」
「でも…思い出せないかもしれない。もしかしたらもっともっとたくさん色んなことを忘れてるかもしれない…もしそんなことになってたら、わたし…」
「落ち着けと言ってるんだ、エマ。今ここで嘆いたってどうしようもないだろ…」
パニックを起こしかけているエマの肩を強く掴み、リヴァイは強く言い聞かせた。
絶望とも言えるような顔が、ゆっくりとこちらを向く。