第25章 神隠し
あの後さっそく井戸を探しに行ったのだが、見つけることはおろか、有力な手がかりも掴めなかった。
覚えていることと言えば、通学路の途中の路地にあったということと、蔦が絡みついた古ぼけた井戸の光景だけ。
その周りの景色もぼんやりとしか思い出せないし、色んな路地を歩き回ってみたけれど、見覚えのある景色というものは一つもなかった。
3ヶ月前に一度通っただけからそうなのかもしれないが、それにしてもこうも覚えていないものか。
エマは自分の記憶力を恨めしく思ってしまっていた。
「別に責めたりなんかしてない、まだ時間はあるしまた探せばいいだろ?そんな暗い顔するな。」
「そう、ですね…すみません、次こそはきっと見つけてみせますね。」
「あぁ」
頭にポス、と手のひらが乗る。
そのままサラサラと何度も髪を滑り落ちるとすごく安心した。
「明日はどうしましょうね。兵長はどこか行きたいところとかしたいことありますか?」
「そうだな…お前が行きたいところに俺も行きたい。したいことと言えば一つしかねぇな。」
「一つしか?何ですか?それ、」
そんな言われ方をしたらすごく気になってしまう。
兵長が思う、一つしかないしたいことってなんだろう?
エマは興味ありげにその顔を見上げた。
「セックスに決まってんだろ。」
「はぁ?!!」
驚愕、と言った表情で素っ頓狂な声を出すエマとは正反対に、至って真面目な顔のリヴァイ。
「や……あの、そういうのじゃなくて…」
「単純にしたいことだろ?なら俺の中ではセックス一択だ。」
「う…」
真顔で言いきられ言葉に詰まる。
そんな答えが飛んでくるなんて全くもって予想もしていなかったため、どう返せばいいのか分からなくなってしまった。
「お前はしたくないのか…?」
絡んだ視線に熱が篭っている。
「いえ、したくないことはないんですけど…」
胸の高鳴りが止まらない。勝手に身体が期待し始めてしまう。
ぼうっとしてたらまたあっという間にこの人に流されてしまう…
エマは必死に頭を回してこの場を回避する台詞を考えた。
「ほ、ほら!例えば温泉とか!」
「オンセン…?なんだそりゃ。」
どうにか絞り出した言葉に、肌を滑っていた手がピタリと止まった。