第25章 神隠し
「ふぅ、お腹いっぱいですね。」
「お前の所は色んな食いもんが溢れてんだな。」
左右に立ち並ぶ飲食店に目をやりながらリヴァイは呟く。
「兵長には他にも食べてもらいたいものがいっぱいあるので、せっかくだし色々食べてってくださいね!」
ラーメンがいけるなら餃子とかも好きだろうか?
寿司なんかも食べてみてもらいたいし、納豆や梅干しみたいなちょっとクセのある物を食べたら、一体どんなリアクションをするのだろう?
この先数日、一緒に何を食べようかと考えているだけで楽しくなってくる。
「一人で何笑ってやがる。」
「フフフ、すみません。なんかデートみたいで楽しいなって。」
自然と零れた笑顔を隠すわけでもなくリヴァイへ向けると、優しさを宿した瞳があった。
「こういうのを普通はデートって言うんじゃねぇのか?」
「あ…そうかもです、フフ。」
何せこんなにのんびりと二人で過ごすのは初めてだ。
特に何かするわけではないが、ただ並んで歩いて同じ物を食べてお喋りして、それだけでエマの心はとても満たされた。
「しかしラーメンとやらは味は良いが口の中に残るな…」
「あ、これ舐めます?」
おもむろにポケットを漁り、さっき会計の時に店員からもらった飴玉を取り出した。
「ちょっとここ座ってください。」
通路にあったベンチに座ってもらい、飴玉を渡す。
「なんだこれは。」
怪訝そうに飴玉を見つめたままのリヴァイ。
エマはそれをひょいとつまみ、袋を破って中身を見せた。
「ただの飴ですよ。」
「…こんな色をした飴は見たことねぇが、」
袋から出すと、着色料をふんだんに使った鮮やかな水色の飴玉が出てきて、余計に怪しませてしまったようで苦笑いを返す。
「確かに、これじゃ怪しそうにも見えますね。でも、ちゃんと食べられるし美味しいですよ?」
ほら、と言って先に口に入れて見せた。
口内の熱で溶け出した甘さが、瞬く間に口の中いっぱいに広がっていく。
「ん…甘い」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫ですよ!甘くて美味しいです。はい、兵長もどうぞ、」
「甘くて美味しい…か。」
顔を覗き込んで様子を慎重に確認しているリヴァイだったが、エマの言葉をポツリと復唱すると、その手がスッと伸びて顎を捕らえた。