第25章 神隠し
「何か気になるお店はありますか?」
レストラン街を見て回りながら尋ねると、リヴァイは視線だけを左右に移動させながら両側を埋める飲食店を眺めていたが、ある店舗の前に近づき、ショーウィンドウに飾られた食品サンプルに注目した。
「このパスタみたいな麺が入ったスープはなんだ。」
「これはラーメンと言って、確かに見た目はパスタに似てますけど…味も食感も全然違いますよ。」
「ほう…ならここがいい。」
「分かりました!」
リヴァイの指名でラーメン屋に入り、この店のオススメだという醤油ラーメンを二つ頼むと、しばらくして湯気が立ち込める熱々のラーメンが運ばれてきた。
しかしここでエマは重要なことに気がつく。
「あ!お箸!」
思い出したように声を張るエマの言葉に、リヴァイはキョトン顔をする。
「兵長!しまってしまいました!ここお箸です!お箸なんて使えないですよね…フォークとかないかな…」
「…ハシとはこれのことか?」
急に焦り出すエマに、テーブルの端に何本も束ねて置いてある黒い箸を1本引き抜くリヴァイ。
「そうです、そうなんですけど…そんな物でご飯食べたことないですよね…?」
「どう使えばいいんだ。」
「あ、えと…」
リヴァイに促されてエマも箸を引き抜くと、とりあえず普通に使って一口食べてみた。
「こんな感じで使うんですけど…」
「……こうか?」
「え、兵長…すごい。」
見様見真似で麺を挟み口へ運ぶリヴァイ。
持ち方こそ少しおかしいが、あまりにもさらっとやってのけるので、思わず感嘆の声が漏れてしまった。
「たった1回見ただけでお箸が使えちゃうなんて、びっくりです。」
「お前の真似したら普通に出来たぞ。
確かにパスタとは全く別もんだが、これはこれでなかなか悪くねぇ味だな。」
もうコツを掴んだのか、二度、三度と器用にラーメンを口へ運び、またちゅるちゅると少しずつ啜っている。
「ハハハ…ほんと凄いです。兵長は何をしても器用なんですね。」
「これくらい誰でもできるだろ。」
「いや…普通は練習しないとできないと思いますよ?」
フフフと笑って啜る。
余計な心配は無用だったようだ。
どうやらラーメンは気に入ったようで、その後もリヴァイは黙々と麺を掬っては頬張っていた。