第4章 混乱
「さっきの会話を気にしてんのか?」
エマは横目でエルヴィンを見やると、ソファに腰を下ろしリヴァイが持ってきた報告書に目を向けている。
「別に気にしてません。」
「あんなのは挨拶みたいなもんで深い意味は無い。気にするな。」
「だから気にしてませんってば!」
バッと振り返りながらまた感情的に口走ってしまうと、冷静な表情で自分を見つめているリヴァイと目が合う。
「っ……すみません、ちょっとムッとしてしまいました。」
「いや、いい。紅茶、楽しみにしてるぞ。」
目が合った瞬間気まずくなってしまったエマは、俯いて小さな声で謝る。
リヴァイの表情は見えなかったが、声色からは特になんの感情も読み取れなかった。
“俺はガキは好みじゃねぇよ”
頭の中で先程のリヴァイの言葉が繰り返される。
エルヴィンにからかわれたのが悔しいんじゃない。
リヴァイの一言が自分に予想外の衝撃を与えたのだ。
私、迷子になった日からどうしちゃったんだろ。
あの日以来、実はリヴァイとの接触は何となく避けてしまっていたのだ。
食事も大体ハンジととるか一人だし、日中も書庫に籠っていた。
それにリヴァイから秘書としての仕事はまだ頼まれていないので、二人きりはおろかあまり会話らしい会話もしていなかった。
エマはあの夜のことを思い出す度に胸が高鳴ってしまっていた。
そんな状態でリヴァイを目の前にしたら、平常心でいられる自信が自分にはなかったのだ。
だから、それを恐れて彼を避けてしまっているのである。
しかし、さっきのリヴァイの発言で自分の心がグサリと鋭いもので抉られたような気分になってしまった。
簡単に言えば、傷ついた。
あの夜、リヴァイ兵長は100%善意で自分を救ってくれことぐらい分かってる。
たまたま寒かったから私の体に腕を回してくれただけで、具合が悪かったからすぐさま帰る必要があって、だから抱きかかえられたのだってやむを得ずでしょ?
一体何を期待してるの?
私はなんでさっきの言葉に傷ついてるの?