第25章 神隠し
冷蔵庫を開けると母親が買い置きしてくれていたようで、食材は一通り揃っていた。
しばらく買い出しはしなくても何とかなりそうだ。
「兵長はここに座って待っててください、すぐにできるので。」
「あぁ」
リビングを彷徨きながら落ち着かない様子でキョロキョロしているリヴァイに、ダイニングテーブルの椅子に座るよう促すと、素直に腰を下ろしていた。
結局、あの後は朝から激しく交わり、下へ降りてきたころには時計の針は午前9時前をさしていた。
まさか本当にあのまま身体を重ねることになるなんて全くの想定外だったのだが、実際、一週間ぶりのリヴァイとの情事は心身ともにとても満たされたのも事実だ。
こちらの世界に来ても、その辺の事情はリヴァイに主導権を握られたままだし結局自分も良いようにされてしまうので、エマはもう諦めて観念することにした。
「料理はできるのか?」
テーブルに頬杖を付きながらこちらを見るリヴァイと目が合う。
「んー簡単なものばかりですけど、一応は。」
うちは共働きなので、小さい頃から家事や料理の手伝いはよくやっている方だと思う。
母親の帰りが遅い日なんかは晩ご飯をこしらえることもある。
そんな生活が普通なので、家事や料理は別に嫌いではない。
「そうか、それは楽しみにしてる。」
少し声のトーンが上がって、本当に楽しみにしてくれている様子だった。
そんなリヴァイを見た後、エマは手元へ目線を移す。
作っているのはフレンチトーストと、ベーコンエッグとサラダだ。
「ごめんなさい、とりあえず今は簡単なもので勘弁してください。追追、ちゃんとしたものを作るので。」
本当はもう少し手間をかけて用意してあげたいが、生憎そんな余裕はまだない。
「お前が作ってくれたもんなら何でも食べるぞ。」
「…へへ、ありがとうございます。」
なんか、会話が普通のカップルみたいですごく楽しい。
いや、普通のカップルなんだけど…
この浮ついた気持ちは自宅に帰ってこれたからなのか、目の前の兵長が兵舎の中とは違いどことなく柔らかい雰囲気だからなのか、何故なのかは分からないけど、とにかく心は弾んでいた。
兵長は和食も食べられるのかな…
今度作ってあげたいな。
そんな事を考えながら、出来たてのフレンチトーストを皿に盛りつけていった。