第24章 異世界トリップ
「早かったな。」
部屋に戻ると、勉強机の椅子に腰掛けてペラペラと文庫本をめくっている兵長がいた。
姿を見ると安心する。
兵長には申し訳ないかもしれないが、兵長が一緒でよかったと思ってしまった。
「下に両親がいました。」
「誰かと喋ってる声が聞こえてきてたが会えたのか。よかったじゃねぇか。」
「そう、ですね…そうなんですけど…」
文庫本をパタリと閉じて体をこちらへ向けた兵長は、歯切れの悪い私の返事に不思議そうな顔をして聞いた。
「どうした、久しぶりの再会だってのに嬉しくなかったのか?」
「もちろん嬉しかったんですけど…その、二人とも私がいなかったことに気が付いていなかったというか…まるで何事もなかったかのようにしてたんです。というかそもそも…」
兵長は黙って聞いてくれている。
私は続けて、時は進んでいないどころか井戸に落ちた当日の朝まで少し巻き戻っていること、そしてざっと見た感じこの家はやはり自分の家で間違いなかったことを話した。
「ほう…それじゃお前が過ごした3ヶ月って時間は、どこに消えたんだろうな。」
「分かりません…でも私が行方不明になっていなかったのは、幸いと言ってもいいのかも。」
「確かにそうだな。」
本当にそうだ。
もし同じだけ時が過ぎてしまっていたら、どれだけ両親に心配をかけていただろう…
その点ではこっちの世界の時間がまったく進んでいなくて良かったと思える。
「分かったことはそれだけか?」
「とりあえずは。あ、」
「?」
「今日から一週間、両親が旅行に行くって言って、さっきちょうど出かけていきました。」
「そうなのか…」
そんな話、本当に初耳なんだけどな…
やっぱりおかしいな、と思いながらも、そのことはとりあえず兵長には言わないでおいた。
旅行の話を思い出せないことなんかより、もっと考えなければいけないことがある。
難しい顔をしていると、相変わらず冷静な兵長から質問が飛んでくる。
「この家に住んでるのはお前と両親だけなのか?」
「そうですけど…」
「そうか。なら言っちゃ悪いかもしれねぇが、こっちにとっちゃ好都合だな。」
「え?」
“好都合だ”という意味が分からなくて聞き返すと、兵長はあくまで冷静に続けた。