第24章 異世界トリップ
「お!おはようエマ。悪いけど頼んだよ。」
リビングから出てきた父親とも出くわした。
「おはようお父さん。うん、任せて。」
「じゃあそろそろ行かなきゃね。エマ、よろしくお願いね。お土産たくさん買ってくるから!」
「親がいないからって学校サボるんじゃないぞ。」
「ちゃんと行くから大丈夫。二人とも、楽しんできてね!」
私はそのまま玄関で二人を見送った。
ガチャリ、と閉まったドアを見つめながら考える。
二人とも、何事もなかったかのように普通に話してた。
まるで、昨日までここに私が存在していたかのように、本当に自然に。
「…………」
少し考えるとひとつの仮説が浮かび上がり、私はすぐさま踵を返してリビングへと急いだ。
壁に掛かったカレンンダーを見る。
そこには2019年10月10日から17日まで○がついていて、その期間が矢印で結ばれ、母親の字で“旅行”と書かれていた。
次にテレビを付けて、番組表を見た。
「2019年10月10日………やっぱり。」
あの日から、時が進んでない。
私が井戸に落ちて兵長の元へ飛んだあの日から、一日も。
それどころか、時間が少し巻き戻ってる。
だって井戸に落ちたのは10月10日の学校帰り、つまり夕方だったはず…
「どういうこと…」
3ヶ月もあっちの世界にいたというのに、こちらの世界ではまるで時が進んでいなかった。
そしてもう一つ気になることも。
「………やっぱり、ヨーロッパへ行くなんて聞いた覚えがないよ…」
両親が旅行で一週間家を空けるなんてそうそうないこと、普通は覚えているはず。
いくら3ヶ月前の記憶だったとしても忘れるわけがないと思う…
しかもさらに気味が悪いのが、本当にそんな話は初耳だと言うくらい、その記憶の僅かなかけらさえも頭に残っていないこと。
私は理解しがたい事実と、自分の身に起こっている妙な違和感になんだか怖くなって、足早に自分の部屋へと戻った。