第23章 予想外の出来事
靱やかな体を抱きしめてエマの匂いがふわりと香ると、心身がすぅっと癒やされていく。
「…兵長。」
少しの間それを噛みしめていると、愛しい声に名前を呼ばれた。
「どうした。」
「あの、お仕事は…」
「んなの後回しだ。」
今日の訓練は終わっている。
まだ執務室には片付けなければいけない紙の束がどっさりだが、そんなもんは大した問題じゃない。
「でも…お忙しいのに大丈夫ですか?私にも手伝えることがあれば戻って一緒に…」
「…おい、そんなに俺と離れてぇのか?」
エマの言葉につい突っかかってしまった。
抱きしめたまま顔を覗くと心配そうな顔をしたエマと目があった。
「いえ、そういうんじゃなくて…その、兵長最近かなりお忙しいのでこんなところでお時間使わせてしまっていていいのかなって…」
こんなところで、お時間を…?
まったく、こいつは何をズレたことを言ってやがるんだ。
「俺がしたくてしてんだ、いいに決まってるじゃねぇか。」
「そ、そうなんですけど、」
「少しくらいこうして立ち止まったっていいだろ。最近お前が足りて無さすぎて気がおかしくなっちまいそうだったんだ、少し補給させろ。」
視線を合わせたまま心の内を包み隠さず話すと、エマははにかんで、小さな声で呟いた。
「兵長…嬉しいです。」
「?」
「私も…兵長が足りないな…って思ってたんです。そしたらまさか兵長も同じこと思ってくれてたなんて…フフフ、嬉しい。」
「…………」
思わず体を離して、嬉しそうに笑うエマを見つめてしまった。
予想に反した動きだったのか、エマは少しだけ戸惑った様子でぽかんとしている。
こいつはどこまで俺の心を掻き乱すんだよ…
照れくさそうに本音を言ういじらしいエマを見ていたら、ギリギリのところで抑えていた欲求が今にも爆発してしまいそうなほど膨れ上がった。
あぁもう、執務なんか後でいくらでもやればいい。
今はもうこのままエマを自室に連れ帰って、めちゃくちゃに抱いてしまいたい…
リヴァイは湧き上がった衝動に任せてエマの手を取り、歩き出そうとした。