第23章 予想外の出来事
そう考えると、エマの心の中に急速に不安な気持ちが広がっていく。
誰が生きて、誰が死ぬかなんて誰にも分からない。
もしかしたら相当運良く誰も死なないかもしれないし、その逆だってなくはない。
もし、もしも兵長が…
それだけじゃない、団長も、ハンジさんんもモブリットさんもミケさんもリヴァイ班の皆も、この兵団の全ての人が…
そこまで考えたところでエマは目ギュッと閉じて小さくかぶりを振った。
前回の壁外調査の時よりもずっとリアルに考えてしまうのは、やはり巨人の姿を目の当たりにしたせいなのか、ここで暮らす人たちがエマにとってよりかけがえのない存在になっているからだろうか…
エマはチラリと横を見た。
相変わらず手元を見つめながら、何かを書いている白い手。
前髪の隙間から覗く切れ長の瞳。
…私は兵長を、調査兵団の皆を信じなければ。
信じて待つことが、私にできる唯一で最大のことなのだから。
壁外へ行くリヴァイ達の方が何倍も、何十倍もの不安と緊張を感じているはずだ。
それなのに自分なんかが弱気になってどうする。
エマは不安に飲み込まれそうになった心をしっかりと立て直し、ペンを握りしめ、書きかけの書類にまた文字を連ねていった。
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それから一週間が経った日の朝。
日課の早朝美化活動をしていると、珍しい人物が声をかけてきた。
「エマ。」
「わぁっ!ミケさん…びっくりしたぁ。」
「おはよう。」
「お、おはようございます!」
シン…と静かな朝に突如響いた重低音にビクっと肩を振るわせ振り返ると、ミケが立っていた。
しゃがんでいたエマは、ただでさえ190cmほどある高身長のミケがますます大きく見えて反射的に立ち上がった。
「悪い、驚かすつもりはなかったんだが。」
「いや私こそ驚いてすみません!まさかミケさんが声をかけてくれるなんて思わなくて。」
「朝自主練の時度々お前の姿をここで見かけてたから気になっててな。それは何の野菜の種だ?」
「野菜…ですか?」
あくまで真剣な顔で真面目に聞いてくるミケに、思わずエマも真面目に聞き返してしまった。