第22章 制御不能 ※
自分と同じようにエマを恋慕していたはずのエルヴィンが、どうしてこんな行動を取れるのか、リヴァイにはやはり理解できなかった。
だがそんな男でもついて行くと決めたのは自分自身だ。
今更この男のやり方に口出ししたところで無駄な足掻きだということも分かっている。
そう思うと、エルヴィンに対しての腸が煮えくり返りそうな程の怒りは徐々に収まっていったが、リヴァイの心境は複雑だった。
宿へと到着すると一応三部屋が用意されていたが、エマも彼女の荷物も全て自分の部屋へと運んだ。
ベッドの縁に腰掛け、瞼を閉じ静かに呼吸を繰り返すエマをじっと眺めながら、時折髪を撫でていた。
するとそのうち閉じていた瞼がピクリと動き、薄ら目を開けた。
「………へい、ちょう…」
「エマ。」
虚ろな瞳に映ったのは、物憂げな三白眼を添えた端正な顔。
私……そうか、伯爵に薬を飲まされて…
断片的だが記憶ははっきりとある。
媚薬によって制御できなくなった身体を兵長が…
「気分はどうだ?」
「…そんなに悪くないです。」
リヴァイのおかげか、終わりが見えないほど地獄のように疼き続けていた身体の熱は嘘のように収まっていた。
「そうか、良かった。体は動くか?」
「………あ、動く。」
手をついてゆっくりと上体を起こしてみる。もう問題なく動きそうだ。
喉が乾いてるだろうと差し出された水を飲み込むと、パリパリに乾いていた喉が瞬間的に潤った。美味しい。
コップ一杯の水を何口かに分けて全部流し込んだ。
その間、リヴァイは何も言わずにそばに居てくれていた。
「兵長…ごめんなさい。私が伯爵の危なさに気が付けなかったばかりに、また迷惑を掛けてしまって…」
「いやお前は悪くない、謝るのは俺の方だ。」
暖かな両手がエマの手をギュッと包み込む。
リヴァイが静かに口を開いた。
「お前を危険な目に合わせないと約束したのに、守ってやれなくてすまなかった。憲兵に襲われた時にクソほど後悔したのに、また同じことを繰り返すなんて、自分で自分が許せねぇ…」