第21章 初体験
「ぐ…あ゛がっ……」
息ができない。苦しい。助けて一
声にならない叫び声を上げる。
キリキリと首を締め付けられ酸素を取り込めなくなると、次第に思考が働かなくなっていった。
「ねぇ、エマ?ちゃんと僕を見てよ。目の前にいるのにあいつのことばっか考えないでよ…こんなに君のことが好きなのに…」
悲しげな声が耳の遠いところで聞こえる。
もう、ダメだ……
薄れゆく意識のなかでついに自身の限界を感じたその時、
バァンッ!!
大きな衝撃音がエマの耳をつんざいた。
その音で飛びかけていた意識が戻り、同時に締め付けられていた手が緩まった。
「取り込み中すまねぇが、そこでぶっ倒れてるのは俺の秘書か?」
耳の遠くの方で聞こえた声にエマの瞳は大きく見開かれる。
この声は…この、声は……
今聞いた声が幻ではないことを祈りながら、ゆっくりと視線を向けた。
「リヴァ…へいちょ……」
入口に佇む彼の名前を呼んだ瞬間、また一気に涙が溢れた。
「おいおい、高貴なお方が土足でソファに上がるなんざちょっとお行儀が悪いんじゃねぇのか?」
部屋の中央へとまっすぐ歩みを進めながら、静かに語りかける兵士長。
伯爵は彼の全身から放たれる異様な殺気を感じ取り、背筋をゾクリとさせて後ずさった。
「お前、なぜここに……」
「てめぇこそこんな所でコソコソと何してるかと思えば、随分と面白そうなことしてるじゃねぇか。俺の大事な秘書を使って…なぁ?」
ゴッ一
エマの頭上で鈍い音がしたかと思えば、伯爵が床に吹っ飛んでいた。
「こ、この野郎………っ!!」
床にうずくまる男を、氷のように冷え切った三白眼が見下ろす。
その手には先程エマに飲ませたティーカップが握られていた。
「俺は紅茶は好きだがハーブティーは飲んだことなくてな。美味いのか?うちの秘書は気に入って沢山飲んだようだな。」
リヴァイは伯爵の前にしゃがんで顎を掴み無理矢理口を開けさせると、カップに残っていたハーブティーを喉の奥へ流し込んだ。