第21章 初体験
視線の先には、座ったまま頬杖をついて自分を見下ろす伯爵の姿。
「思ったより早く効いたみたいだね。」
口端を吊り上げながら妖しく顔を歪ませ、どこか愉しそうにそう言う彼はさっきまでとはまるで別人のように見えた。
「どう……い…う……」
全身が痺れて力が入らない上に声も上手く出せない。
自分の身体が自分のものではないような感覚に、エマは恐怖した。
「フフッ、全然動けないでしょ?どう?特性ハーブティーの“お味”は。」
「……!!」
まさかあのハーブティーに何か混ざっていたの?!
エマの脳内に警鐘が鳴り響く。
が、時すでに遅しだった。
伯爵はクスクスと笑いながら倒れたエマの前に跪いた。
冷たい手のひらが頬に触れるとビクリと身体が跳ねる。
「そんなに怯えた顔しないで。これはただの“保険”だから。
君が素直に僕の所へ来ると言ってくれればこれ以上は何もしないよ?」
「………それは……無理…」
頬を撫でながら優しい口調で問いかける伯爵に、エマは言い知れぬ恐怖を感じながらもはっきりと拒絶する。
「……ふぅん」
すると伯爵はエマから離れ、ポケットから小瓶を取り出すと、一口も口をつけていない自分のハーブティに瓶の中の液体を注いだ。
「ねぇ、君ってあの兵士長のこと好きなんだよね?」
「!!」
「ハハハッ!その顔やっぱり図星かぁ。
だって分かりやすいんだもん。広間にいた時も目で追っちゃってたでしょ?僕に向ける視線とは全然違うからすぐに分かったよ。」
スプーンで液体をかき混ぜながら淡々と話しをする。
「僕は今まで欲しいものは何でも手に入れてきた。大抵のものは金で手に入るから楽なもんなんだけどさ。
でも、“人”はそうはいかないよね。だって、相手には“心”があるんだから。」
カシャン、とスプーンが磁器に当たる音がする。
「僕も馬鹿じゃないし、初めから君が首を縦に振ってくれるなんて思ってない。だけど、欲しいと思ったものはすぐにでも手に入れたい、必ずね……分かるかな?」
「……そん…なの、わからな……ひゃっ!」