第21章 初体験
「うわっ一」
「おっと…大丈夫?」
手を引き先を歩くエマの足が突然もつれてしまった。
伯爵が咄嗟に抱きとめたおかげで盛大に転ぶことは免れたが、不意に密着した体にドキリとしてしまい慌てて離れた。
「ごっごめんなさい!さっきから私…しっかりしなくちゃですね。」
目が回ったというのはつい口をついて出た言葉だったのだが、実際慣れないダンスのせいでエマの足はふらついていたようだ。
勢いよく頭を下げると、伯爵の暖かい手のひらが頭に乗っかった。
「ううん、こんなの全然。僕も勢いでダンス誘っちゃったし…でも一緒に踊れて嬉しかったよ。少し疲れたよね、休憩しよっか。」
伯爵は美しい笑顔を崩さぬまま、今度は自身がエマの手を握って歩き出した。
ガチャ一
「ここなら静かだからゆっくりできるかな。」
手を引かれるがままやってきたのは、広間を出て長い廊下を歩いた先にあった一室。
中は広々としていて、大きな革張りのソファとテーブルが部屋の中央に鎮座していた。
部屋に入るとすぐソファに腰をかけるように促され、エマはとりあえず言われた通りにする。
「あの、休憩するのにわざわざこんな大きなお部屋を使わせていただいて良かったのでしょうか?」
「ん?そんなことは気にしなくていいんだよ。ここ、僕んところの別邸だし。所有者は僕なんだ。」
「そうだったのですか!」
こんな大きな屋敷が別邸と言うことは、本邸はきっとさらに立派なのだろう…
やはりグラーフ伯爵は相当なお金持ちのようだ。
すると、コンコンとドアをノックする音が響き、燕尾服を来た執事らしき男性がティーセットを運んできた。
「坊っちゃま、お茶をお持ちしました。」
「ありがとう。あとは僕がやるから下がっていいよ。」
伯爵がそう言うと、執事はすぐに出ていった。
「結構お茶淹れるの得意なんだ。あ、ハーブティーって飲める?」
「はい。すみませんお手間をかけさせてしまって。」
「いいのいいの!せっかくの機会なんだしおもてなしさせて。」
伯爵は楽しそうに鼻歌を歌いながら、慣れた手つきでカップへと注いでいく。
ガラス製のポットの中でゆらゆらと揺れる茶葉を眺めていた。