第21章 初体験
集まっていた兵士も散り散りとなり、その場に残ったのは調査兵団の二人のみ。
「どうだリヴァイ?伯爵の印象は?」
「気に食わねぇな。あの鬱陶しそうな前髪を生え際あたりで綺麗に切りそろえてやりてぇよ。」
「ハハッ、なかなか言うな。だが言った通りの好青年だっただろう?」
「あれだけじゃまだじゃあいつの素性まで分からない。貴族なんざ基本的に頭のおかしいやつばかりだしな…だから今日はできる限りあいつを見張るつもりだ。」
「さすがだよ、私はお前のそういうところを買ってる。エマを頼んだぞ。」
「見張り役は俺一人で十分だ。お前はいつも通りお得意様の接待に精を出してろ。」
「あぁ、助かる。」
エルヴィンはリヴァイの言葉に安心したように言うと、広間のどこかへと消えていった。
やはりいくら伯爵の評判がいいからと言って、信用しきってはいけない。
ここがそういう場所だと言うのは今まで身をもって経験してきているからリヴァイにはよく分かるのだ。
エマに万が一の事がないように目を離さないようにしていなければ。
ただ……
「…邪魔が入らなければいいんだが。」
一一一
まもなくパーティは開始となった。
エマとグラーフ伯爵はというと、部屋の隅の窓際に並べられた椅子に腰掛け乾杯をしていた。
グラスに注がれた赤紫色の葡萄酒を見つめるエマを、心配そうな顔をした伯爵が覗き込む。
「もしかして苦手だった?」
「いえ!苦手ではないんですけど、あまり強い方ではなくて…」
この時まですっかり忘れていたのだが、夜会ではアルコールを飲むのは当たり前だ。
エマはハンジ達に歓迎会を開いてもらってワインは飲めていたし、別に嫌いではない。
しかし歓迎会で泥酔した夜にリヴァイから酒は控えるようにしろと言われたことを思い出したエマは、つい飲むのを躊躇ってしまったのである。
普通に考えたらここで酒を拒否するなどマナー違反ともとれる行為なのだが、今回伯爵と会うこと自体を心配していたリヴァイに、余計な心配を増やしたくないと思ってしまっていたのだ。
それに歓迎会では酔っ払ってミケに粗相した失態もあったし、この大事な席でやらかしてしまわないか自分自身が不安でもあった。