第21章 初体験
「こんばんは、兵士の皆さん。」
エマを囲む兵士達の後ろから聞こえた、よく通る声。
兵士の間から姿を見せたのは、綺麗な銀髪をした中性的な顔立ちの…美しい青年だった。
その人物の登場にリヴァイはエマの腕を掴もうとした手を静かに降ろした。
彼は…間違いない。
会うのは今日が初めてだが、それが誰なのかはすぐに分かった。
だから、ここは自分を抑制なければならないとリヴァイはじっとその美青年を注視したのだった。
カツカツと靴を鳴らし兵士の間を通り抜けまっすぐエマの前まで来ると、その青年はスマートな動作で右手を差し出した。
「初めまして、君がエマだね?
僕はカール・グラーフ。君に会えて嬉しいよ。」
人懐っこい笑顔を見せながら首をかしげ、エマに握手を求めたのはあのグラーフ伯爵だった。
長めの前髪がさらりと横に流れる。
「はっ初めまして!エマ・トミイと申します。
ほ、本日はお招き頂きありがとうございます。」
思いがけないタイミングでの伯爵の登場に、エマは緊張して少しぎこちない挨拶になったが、差し出された右手を握った。
すると力強く握り返される。
「フフフ、噂通り可愛い人だ。よろしくね、エマ。」
伯爵は人形ように整った顔を近づけニッコリと笑いかけた。
他人がいる前でも平気でそんなことを言うものだから、エマは恥ずかしくなってどういう顔をしていいのか困ってしまった。
「お集まりの皆さんも、今宵はどうぞごゆっくりお楽しみください。
すぐにパーティが始まります。あちらのテーブルに美味しいお酒もご馳走もふんだんにございますので、心ゆくまでお寛ぎを。」
伯爵は兵士達に挨拶をして丁寧なお辞儀をすると、エマへ向き直ってその手を優しくとった。
「さぁ、今夜は素敵な夜にしよう。僕とこちらへ。
団長殿、兵士長殿、エマさんをお借りしますね。」
「承知致しました。
エマ、よろしく頼む。」
「は、はいっ!」
あれよあれよという間に伯爵に手を引かれ、エマはそのまま広間の奥へと連れていかれるのだった。