第21章 初体験
「なんだか恥ずかしいし、緊張してきちゃいました…」
照れ笑いしながらおどけたように言うと、ペトラが笑ってポンと肩を叩く。
「ドレスなんて着る機会ないものね。だけど大丈夫!今日のエマいつにも増してすんごく可愛いんだから!自信持って堂々としてればいいのよ!」
「そうですよね……せっかくこんなに綺麗にしてもらったんだし自信持って行ってきます!」
ペトラの明るく前向きな言葉に優しく背中を押された。
胸を張ってニッコリ笑えば、ペトラも同じように笑いかけてくれた。
「今夜は大変だと思うけど、頑張ってね。応援してるから!」
「ありがとうございます!頑張ってきます!」
ペトラからのエールを有難く受け取り自室を去るのを見送ると、もう一度鏡の前に立った。
改めて自分を見るとやっぱり照れくさかったが、そこはエマもれっきとした乙女だ。
キラキラした華やかなドレス姿に自然とテンションは上がっていった。
せっかくなら一番にこの姿をあの人に見て欲しい。
そんな思いがふつふつと湧いてきて、時計を見やる。
出発までまだ時間がある…行ってもいいかな…
エマはドレスの裾を少し持ち上げ、慣れないヒールをコツコツと鳴らしながら彼がいるであろう場所へと向かった。
一一一
大きな机に座り、ぼうっと手元の文字を眺めていた視線を壁掛け時計へ向ける。
出発まであと30分弱か…
さっきから自分の目は忙しく書類と時計を何度も往復していた。
今朝ハンジから受け取った書類に目を通していたのだが、正直内容はまったくと言っていいほど頭に入っていない。
確かペトラが身支度を手伝ってくれると言っていたが、そろそろ出来ただろうか…
そう、さっきから頭に浮かぶのはエマのことばかり。
夜会にエマを連れていくことは当日になってもやはりいい気はしないが、その反面で華やかに着飾った彼女の姿を想像すると胸は自然と弾んでしまうのだった。
早く姿を見たい…
「…ハッ、」
エマのことが気になりすぎて、まったく仕事が捗らない自分に思わず笑いが零れてしまった。
そんな時、静かな室内に控えめなノック音が響いた。