第20章 小さな違和感
「ハンジさん…」
抱きしめられた腕にそっと力が込められる。
ハンジの温もりが体全体に伝わった。
「私はさ、」
ハンジは体を離してエマの両肩に手を添えると、真っ直ぐエマを見据えた。
「エマとリヴァイが結ばれたことがすごくすごく嬉しい。」
エマを見つめるハンジの瞳が揺れる。
「リヴァイはさ、あんなだけど小さい頃からたくさん辛い経験をしてて…調査兵団に入ってすぐに唯一心を許してた友も無くしてるんだ。」
「え……」
初めて聞いたリヴァイの過去の話にエマは驚愕した。
「大切な人をことごとく失ってきたんだよ、親も友も仲間も。そんな過去を知ってから彼を見ていて一つ思ったことがあるんだ。
ある時から人に対して、ある一定のところで線を引いてるって。」
「線…?」
「そう。それ以上踏み込まれないように、踏み込まないように。相手に深く入れ込むほど失った時のショックは大きくなる。もうそんなのは耐えられなかったのかなって。」
そんなになるほど…兵長は……
「リヴァイはすごく強い。強いが故に彼をよく知らない人からは冷酷だと勘違いされがちだけど、本当は情に厚くて繊細な心の持ち主なんだ。だからこそ、きっと傷ついた時のダメージも大きい。
だからさ、そんなリヴァイに心から愛する人ができて本当に自分の事のように嬉しいんだよ私は。」
ハンジがそこまで話すと、真剣に耳を傾けていたエマの頬に一筋の涙が伝った。
「え?!ちょっとエマ?!ごめん泣かせた?!」
「いえ……ハンジさんのせいじゃ…」
静かに頬を伝う涙を指で拭いながら首を横に振る。
「兵長にそんな過去があったなんて…私、何も知らなくて…」
「エマ……」
…そうだ。
いつも近くにいながら、私にはまだ兵長について知らないことがたくさんだ。
大切な人を何人も失ってきた…親も友達も。
今までどんな思いでその悲しみと向き合ってきたのか、自分には到底推し量ることなんて出来ない。
多くの悲しみを背負いながらも、一兵団の兵士長として剣を振るい続けている。
そんなリヴァイの顔が思い浮かんだ途端、エマの胸は締め付けられ自然と涙が零れたのだった。