第20章 小さな違和感
「たった一人の愛する人を……」
「そう!時には自分の人生を全て相手に捧げたいと思うほどに、愛の力って底知れないもんだと私は思うんだ。」
「………」
ハンジの言葉は重くのしかかった。
私はこの先、一体どういう選択するのだろうか……
兵長と離れるなんて考えられない。
だけど、だからといって故郷を捨てて一生をここで過ごすという覚悟が出来ている訳でもない。
考えても考えても答えは出そうにない。
エマは一点を見つめ黙り込んでしまった。
「エマ?!そんな思い詰めた顔しないで!ごめんね!追い詰めちゃったかな。」
ハンジが心配そうに顔を覗き込むと、エマはハッと我に返ったように顔を上げた。
「ごめんなさい、今結論を出せと言うわけじゃないのに…」
やはりこの話になると考え込んでしまう。
「そっか……そうだよね、私だって君の立場だったらすごく悩むと思う。もっとも、人間には何年も恋なんてしてないんだけどさ、ハハ。」
自嘲気味に言って笑うハンジにつられて、暗い顔をしていたエマの頬の筋肉も少し緩まった。
そして自身の緊張を解すように細長く息を吐き、ハンジに向かって正直な思いを口にした。
「……私、まだ兵長と一緒にいたいです。本当に我儘だって分かってるけど…でも、今は兵長がいない世界で生きるのは考えられないんです。」
眉を下げて困ったように笑うエマ。
自分のことがどうしようもない奴だと言うのは重々承知の上。
それでも、やはりリヴァイと離れるという選択肢はエマの頭にはどうしても浮かばないのだ。
ハンジはそんなエマの本音を聞いて微笑むと、おもむろに席を立ってエマの座る椅子の横に立った。
「エマ、立って?」
「?はい…」
急にどうしたんだろうと思いながら言われた通りに立ち上がると、ぎゅっと抱き寄せられた。
「ハ、ハンジさん…?」
「エマの人生はエマのものだ。そうやって自分に正直になるのが一番だと私は思うよ。
どんな選択になってもエマが考え抜いた結果なら、誰にもそれを咎める権利はないんだから。」