第20章 小さな違和感
ダメだ…完全に周りが見えなくなってる。
あんまり大声出したくないけど、ここは仕方がないか…
エマは目の前で騒いでいるハンジを見据え、鼻から大きく息を吸った。
「ハンジさんっっっ!!!」
勢いよく立ち上がったエマに大声で名前を呼ばれ、ハンジはピクリと体を揺らしこちらを向いた。
「……エマ?どうしたの急に大きな声なんか出しちゃって。」
「ちょっと!…き、休憩しませんか?!」
我を忘れるほど夢中になっていたのかとぼけた返事が返ってきたことは置いといて。
なるべく穏便に鎮めようと思ったが、結果よく分からない提案をしてしまったエマ。
すると暴走したハンジは我を取り戻したようで、“ごめん、ついー!”などと言って頭をボリボリ掻いていた。
一一一一
「んー…なるほどね。つまりシーナで見つけた古井戸が高い確率でエマの世界に繋がってるってわけか。」
「そうなんです。」
ようやく落ち着いたハンジに改めて話をすると、やはりハンジもリヴァイの意見は有力だという見解に達する。
「ここへ来てからもう2ヶ月以上か…向こうに家族とか、大事な人もいるわけだもんね。」
「はい…もちろん皆のことは心配だし、家族にも心配をかけてると思うと早く帰らなきゃって思うんですけど…」
兵長と離れ離れになりたくない一
正直、エマの心の中は変わらずこの思いでいっぱいだ。
心配をかけているのを分かっていて恋人を優先するなんて、本当に自分勝手だと思う。
だけど…
「愛するが故に離れたくない。誰もが思うことだよね。」
「ハンジさん…」
自分の気持ちを代弁するかのようなハンジの台詞に、エマは目を大きくする。
ハンジはそんなエマに優しく微笑んで続けた。
「ほら…よくあるだろ?愛し合ってるのに周りに交際を認められず、故郷も親も友人も捨てて二人でどこか遠くへ逃げてしまう、とか。」
「駆け落ち、ですか?」
「そうそう。エマはそんな事情ではないけどさ。
けれど、今まで自分と関わった大切な人達と愛する人のどちらか選ばなければならなくなった時、その気持ちの大きさによってはたった一人の愛する人を選ぶ事だって実際にあるかもしれないねって話だよ。」