第20章 小さな違和感
「これはスマートフォンと言って、私が向こうの世界で使ってる物なんですけど、ハンジさんの世界に来た時はこの光ってる部分が真っ黒でどこをいじってもまったく動かなくなってたんです。
それが、あの日シーナの古井戸に飛び込もうとした後で見たら急にこうして動くようになってて。」
エマはロックを解除して、適当に指を滑らせて画面をいじってみせた。
「それで、兵長はあの井戸が私の世界と繋がってるから何らかの力が働いてこれが動くようになったんじゃないかって。私もそうじゃないかと思ってるんですけど………ん?ハンジさん?」
なかなか相槌が返って来なかったので手元から目線を上げると、スマートフォンを覗き込んだまま目を見開いて固まるハンジが目に入った。
そしてハンジはエマと目が合った瞬間、喋ることを思い出したかのようにその口を開いた。
「ちょっとエマこれ……この光は何?!どういう原理で発光してるの?!この表面のツルツルした材質は何?ガラス?!でもガラスがこんな風に光るなんて聞いたことないし、特別な鉱石か何かかなぁ?!あとさあとさ!なんでここにエマの顔が写ってるの?!なにこれすっごい!わかんない事だらけだよ!すげーーーー!!!」
鼻息を荒くさせた大きな声がエマの耳をつんざく。
初めて見るスマートフォンはハンジの知的好奇心を極限まで高ぶらせてしまったようで、エマ話を遮ってしまい質問の嵐だ。
机に置かれたそれを手に取り、くまなく観察しながら一人でブツブツと何かを喋っている。
こうなってしまったハンジを止めるのはなかなか容易ではない。
エマも普段のモブリットの様子を見てそれは何となく分かっていた。
「ちょっと、ハンジさん一回落ち着いて…」
「ここに目ぇ近づけるとすんげーチカチカする!眩しい!なにこれ?!え?訳わかんない絵?文字?がいっぱい飛び出してくる!すごいすごい!!」
「ハ、ハンジさーん。」
「ねぇエマ!この物体の構造を一から教えてよ!こんなの本当に見たことない…これは間違いなくかなり発達した文明の産物だ!ひょー!!ねぇねぇ、ちょっとだけ分解とかしてみてもいいのかなぁ?!」