第20章 小さな違和感
ハンジが去った部屋の中は驚くほど静かになった。
「…バレちゃいましたね。」
「そうだな。ハンジに知られたくなかったか?」
イライラの元凶が立ち去り、不機嫌オーラも落ち着いてきたリヴァイは、少しはにかみながら言うエマの本心を聞いてみる。
「いえ、ハンジさんには色々お世話になってるしいずれ話したいと思ってたので、大丈夫です。」
「そうか。さっきの耳打ちは話を聞かせろと言ってたのか?」
「はい。今夜…ハンジさんに話してきてもいいですか?」
「あぁ。俺はお前とのことを周りに隠すつもりはねぇし、お前が話したいやつがいれば話せばいい。」
「わ、分かりました!」
予想通り、リヴァイはこういうことに関しておおっぴらでも全然平気な人……というかたぶん周りに知られても知られなくても自分たちとは関係ないと思っているんだろうなと感じた。
「兵長は、やっぱり男らしい人ですね。」
「は?」
「物怖じしないし動じないし、いい意味で周りを気にしないというか…今の発言だって、凛としててかっこよかったです。」
クスリと嬉しそうに笑みを零すエマの頭に骨張った手が乗った。
その手が後頭部に滑り、その中心で髪を束ねているホワイトとゴールドの髪結いにくるりと指を絡めたあと、後頭部を抑え、唇を落とす。
唇はそっと押し付けられ、ちゅ…と感触の余韻を残しながらゆっくりと離れていく。とても優しいキスだった。
「…へいちょう?」
「お前から口説かれたのは初めてだな。」
「く!口説いたなんて……!」
聞こえた言葉に焦ったけど、見上げた兵長の表情はとても柔らかくて私もつられて頬が緩まった。
嬉しいと思ってくれているのが真っ直ぐ伝わって、私も嬉しかったのだ。
「まぁ隠すよりおおっぴらにしていた方がお前に変な虫がつかねぇから、そういう意味でも言ったんだがな。」
「そ、そうだったのですか…」
「お前は気付いちゃいねぇだろうが、狙ってる奴は結構いる。」
「え?そんなまさか。」
それは冗談でしょ、とでも言いたげなエマだったが、これは冗談ではない。