第20章 小さな違和感
ハンジは顔を覗き込むようにしてエマにも謝る。
「エマもごめんね?大丈夫?」
「は、はい…」
「なら良かった。でも入ってきたのが私でよかったよねー!」
「た、確かにそうかもしれないですね…男性だったらもっと気まずいし…」
こんなところを見られてもう穴があったら入りたいぐらいだったのだが、ハンジのあっけらかんとした態度と全く動じていないリヴァイを見て、自分だけがいつまでもモジモジしたままでは余計に恥ずかしくなり、エマはついに顔を上げて素直に答えた。
「で?いきなり叫びながら入ってきて一体何の用だ。」
リヴァイは相変わらず心底不機嫌そうにハンジに睨みをきかせているが、結局追い返さずに律儀に用件を聞いてやっているのを見てエマはやっぱり優しいんだなと思った。
ハンジはハッと思い出したように話し始める。
「あぁそれ!実はさっき被検体の巨人が死んだんだよ…」
「まだ捕獲して一週間も経ってねぇじゃねぇか…またお前がこねくり回して殺したのか?」
「ま、まぁそんなところなんだけどさ。もう少しでひとつの仮説が立証出来そうな所だったんだよー!」
「それで、立証する前に殺っちまって、今回も何の成果も得られませんでした、と?」
「う……痛いところを突くね。ねぇリヴァイ、エルヴィンになんて報告したらいいと思う?」
「そんなの正直に言うしかねぇだろ。」
「それはそうなんだけど!“また”今回も何も得られなかったなんて言ったら、そろそろ巨人捕獲にまで兵団資金が回らなくなりそうな気がして…何か有力な策はないかと思ってさぁ。」
「壁外調査が出来なくなるのは兵団の存続に関わる。資金不足になればまずそっちを削るだろうな。」
それは困るー!と唸るハンジに“それを考えるのがお前の務めでもあるだろ”と突き放すリヴァイ。
エマはそんな二人のやり取りを黙って見ていた。
また今回も成果が得られなかったって言ってたけど、巨人の生体を明かすのは思った以上に難しいんだな…
ハンジさん自分のこと後回しで実験につきっきりだったのに。
それに、調査兵団の資金繰りはあまり良いものじゃないと色んなところで聞くけど、やっぱり厳しいんだ。