第20章 小さな違和感
“私、今幸せです”
正直、団長に向かっこんな言葉を言うのはすごく迷った。
自分に想いを寄せてくれていると分かっていながらこんなことを言ってしまえば、また傷つけてしまうと…
だけど、幸せになって欲しいと言ってくれる団長に、ちゃんと伝えたかった。
余計なことは言わなくていいから、正直な気持ちを。
それが自分の幸せを願ってくれる人への誠意だと思った。
でも、やはり傷つけてしまっただろうか…
“私も嬉しいよ”と言ってくれた団長の眼差しは変わらずあたたかい。
都合のいい解釈かもしれないけれど、今は、目に見えているそのままの団長を信じてしまってもいいのだろうか。
「エマ。私からひとつお願いがあるんだが、いいか?」
「…なんでしょう?」
少しの間を開けてエルヴィンが言う。
エマは少し不安そうに見つめた。
「あいつを…リヴァイのことをどうか支えてやってくれ。あいつに心の拠り所が出来たのは恐らくとても久しぶりだから。
だから、こんなこと言うと君を縛ることになりかねないんだが…できる限り傍にいてやって欲しいと思う。」
思いのほか真剣な表情で言うエルヴィンに、彼の想いの強さを悟る。
「…はい。兵長のお傍で、兵長を大切にします。」
エルヴィンの“願い事”に力強く返事をすると、真剣な顔が安心したようにフワリと緩まった。
「ありがとう…その言葉を聞けてよかった。これで思い残すことはないよ。」
「団長…私こそ、本当に色々とありがとうございます。あの…」
「ん?」
「こ、これからも…たまにこうして話してくれますか…?」
顔色を伺いながら遠慮がちに聞くエマに、エルヴィンは思わず吹き出してしまった。
「この前私が君に言った台詞そのままを返されるとはな。」
「あ!そういえばそうでした…」
「もちろんいいに決まってる。リヴァイと喧嘩した時は愚痴も聞いてやるから遠慮なく来なさい。」
「喧嘩…ですか。」
「ハハ、それは冗談としても、何でも話していいよ。あぁ、惚気はちょっとキツいかもしれないが。」
苦笑しながら冗談めかすエルヴィンにエマの頬が緩む。
二人の間にようやくいつもの穏やかな空気が戻った頃には、窓から柔らかな朝の日差しがいっぱいに降り注いでいた。